餡子の行方
* 語りべ幹大 2.
「ねえ、近衛兄、、、実際、風子のことどう思ってるの?」
シャワーを浴びてきた三ツ矢さんは、ホテルの冷蔵庫から缶ビールを2本出して、俺に1本差し出した。
「え?どうって?」
「確かに近衛兄が、風子を可愛がっているのはわかる。けど、それって、女として見てる?」
三ツ矢さんは、ふわふわの真っ白なバスタオルを体に巻いてそんなことを聞いてきた。きゅっと胸元で締めたバスタオルの隙間から、三ツ矢さんのおっぱいの谷間が見えて、たまんない。彼女は俺がそんなイヤラシイ目線で見てることも無視するように、カチンとプルタブを開け、ぐいっとビールを流し込む。これが、めちゃくちゃかっこよくて、見惚れてしまった。
「風子の初恋、誰だか知ってる?」
それはわかる。絶対ショーニィだと思う。だって、プー子が生まれた時から見てきた男はショーニィで、幼心に植えつけられるショーニィへの想いは格別だろう。
「ああ、、ショーニィでしょ?」
「そうだと思うわ。で、、、再会した今、、、風子は近衛兄を意識しているのよね。」
「え?」
それは知らなかった。だって、19年も会わなかった俺たちだ。それなのに、プー子は健気にもずっとショーニィを思い続けていたということか、、、泣ける。プー子の心に、俺は泣ける。うん、うん、プー子、俺はわかるよ、お前の気持ちが。だったら、応援してやりたい!だがなあ、風子、、、
「えっとね、ショーニィ、、たぶんプー子のこと女としては見てないと思う。きっと。」
「そんな気がしたわ。」
「俺もそうだけど、ショーニィも、プー子が変な男にだけは捕まってほしくないってえのはあるなあ。プー子と会ってから、ショーニィも、アイツは彼氏とかいねえのか?って聞いてきたしさ。たぶん心配なんだろう。あんだけ、天真爛漫で昔とちっとも変ってないプー子に再会したら、余計心配になっちゃうよ。」
「だったら、風子に早くそれをわからせた方が、、だって、風子の気持ちがどんどん近衛兄にいっちゃってて、、、」
この人は、他人を突き放したりするけれど、本当に自分が大好きになった人には心底愛情を注ぐタイプなんだと俺は思う。俺が、今のプー子の位置に格上げになったら、きっと三ツ矢さんは色々と俺のこと面倒みてくれるんだろうなあ、なんてこと思ったら顔がニマニマしてきた。
「まったく、なんで、アンタの兄、今さら風子の不得意な計算ソフトのゲームで釣って、頻繁に会うなんてことしてるのよ?!罪だわよ!男と女の関係になる気持ちがないんなら、再会したときから放っておいてあげればよかったのよ!」
憤慨する三ツ矢さんに、俺は少し後ろめたい。というのも、、、、
あれは、プー子と会った後、三ツ矢さんのことが聞きたくて、プー子に連絡したというのに、アイツは、冷たくも忙しいとかで再三に渡り断ってきた。それでついに、ショーニィに愚痴ってしまった。
『何か今週プー子に会おうと思ったら、忙しいって、会ってくんないだぜ?』
『風子から連絡が来たのか?』
『いや、俺から。風子は絶対、電話なんてくれないよ!』
『ふうん。』
風子の話題に、ショーニィは食いついたみたいだった。だから俺もつい調子にのって、ペラペラと、、、
『なんか、プ―子、計算ソフトが苦手で、毎月作成する売上表とかもろもろ、ひーひー言っているらしいぜ?』
『え?』
『とろそうだしな、アイツ?だから、月末はいっつも残業だって嘆いてた。』
それまでじっと話を聞いていたショーニィがぼそりとつぶやく。
『風子、、アイツ、、彼氏はいないのか?』
『さあ?だけど、何となくプー子に彼氏って想像つかねえよ。』
わりいな、プー子。俺の本当の気持ち。なんかプー子にはいつまでも昔のプー子でいてほしいっていう希望半分、残りの半分は、マジにプー子が男と、こんなことやあんなことなんてしちゃってるのを想像できないっつうか、、したくないっつうか、、、まあ、せいぜいお手て繋いで的なところくらいでおさえておいてほしい、、って、今現在マッパな俺が、さっきまで、それこそあんなことこんなことをしちゃったことを棚にあげて言っちゃっうのも何だが、、、プー子にとっては余計なお世話ってことか。
『ショーニィだって同じだろう? いつまでも昔のプー子でいてほしいっていう、、』
『まあな、風子は未だに食い物の方に興味あるみたいだしな?』
クククと何かを思い出したように笑いながら、ショーニィも結局そんなことを言ったりするんだから、俺たち兄弟は、どうしよもない。プー子は穢れないでほしい、、何ていうのは、勝手な父親の言い分だぜ?
「ねえ、近衛君、、、まじに近衛兄、風子のこと何とも思ってないのかしら?それとも、女とみることにブレーキかけてるとか?赤ちゃんから知っている風子を穢してはいけないみたいな、、父親の心境?」
鋭い、三ツ矢さん。彼女の頭の回転の速さと、洞察力には、今さらながらに舌を巻く。
「まあ、そんな感じかも?」
「だったら、近衛君、少し攻めてみてくれない?」
「はい?」
「ちょっと試してみてくれない?」
何てエロい顔して俺を見てんだよ、三ツ矢さん。赤い唇を舌でチロリと舐めて、流し目で俺を見つめたら、そんなもん、俺がノー!何て言えるわけがない。つうか、1も2もなく俺の頭が勝手に縦に動いて頷いていた。
「ショーニィ、、」
「あ?」
「最近、プー子どうよ?」
「あ?計算ソフトか?まあ、そこそこだな?この間もやっと第4ステージクリアーしたけど、子豚が何度猛獣の餌食になったかわかんないしな?」
急に、毎週金曜にショーニィが風子の家に行き始めた。どうやら、計算ソフトの特訓らしい。風子はとにかく数字やらPCやらが苦手らしく、、、ああ、かわいそうなミニブタ、ブーちゃん。俺は前にショーニィがゲームをしているのを画面でチラリと見たことがあったんで、あの愛くるしいブーちゃんの姿を思い出した。無残にも何度も食われちまったんか、かわいそうに、、、おっと、今はそんなことで哀愁を感じてる場合ではない!そうだ、俺は三ツ矢さんからのミッションがあったんだっけ。
「けど、毎金曜日、特訓って、プー子、何も言わない?」
「はあ?」
「だって、アイツだって色々あるだろうよ?金曜日だぜ?」
「、、、、、」
よ、よし、ここで畳み掛けるぞ!
「この間の合コンで、俺の同期がプー子とまた一緒に飲みたいからセッティングしてくれって、、、」
これは本当だ。同期の景山は、楽しそうに俺としゃべっていたプー子を見初めたらしい。だけど、合コンの翌週、景山の奴が俺のところにやってきてそんなこと言うから、俺の独断で即効断ってやったけどな、ふふん!
「そいつ、どうだ?良いやつか?」
出た!ショーニィの父親目線。よっしゃあ、こっからが俺の腕の見せ所。三ツ矢さんの言う通りに俺は話を広げていく。
「それが、あろうことかさ?プー子の体が、、」
「からだ?」
「うん。あいつ、おっぱいでっかいって。景山ってかなりの爆乳好きで、変態で、風子のおっぱいがデカいって言って、」
「なんだって?!」
こ、こえええよ、ショーニィ、怖いって。言ったのは俺じゃないから、景山だから、つうか、景山もそんなこと言ってないし、すまん。景山。すべては三ツ矢さんの作戦なんだよ。
「幹大、てめえ、断ったんだろうな?」
ひっさしぶりに聞いたよ、ショーニィの『テメエ!』 実にドスが効いてる。オシッコもれちゃいそうだ。
「いや俺も、すぐさま、景山に断ろうと思ってたんだけど、三ツ矢さんが、、あ、三ツ矢さんっていうのは、プー子の同僚で親友なんだけど、彼女が、最近プー子が、その、、ヤケになってて、、、、」
「え?」
俺、、言えるか?言えるのか?頑張れ俺!
「そ、そのおお、、プー子が、、、処女を捨てたいって、」
「あ?」
「だから、バージンは嫌だってプー子が自暴自棄になってるらしくって、誰でもいいからHしたいなんて、、」
「なに?!」
あああ、言っちゃった。言っちゃったよ。俺。てか、ショーニィ、コメカミにすごい怒りマーク浮いてますけど、、、ああ、オシッコちびりそうです。三ツ矢さん、俺、、、怖いっす。
「何で風子がそんな馬鹿なことを、、、」
「知んねえ。けど三ツ矢さんが、景山みたいな男にプー子の純潔はあげちゃだめだ!って反対していて、」
「そりゃ当り前だろう!!!」
「で、三ツ矢さんが、だったら、幼馴染の俺がHしちゃえばって、、」
「何だって?おい、てめえ、まさか、そんなこと鵜呑みにしてんじゃねえだろうな?え?幹大っ?!!」
「い、、いや、、その、、」
俺はショーニィに殺されるかもしんねえ。だよなあ、風子はショーニィにとっても、”食いしん坊の天使” ってアイコンだしなあ、、、だから、嫌だったんだよ、こんなことでショーニィを挑発するのは、、、だけど三ツ矢さんのあのエロい顔で頼まれちゃったらさ、、、あのときは、脳みそを使わず下半身で考えちゃったわけで、、、、ああ、俺って最低!最低な奴だああ!だが、こんなことで折れていてはだめだ、あともう一息だ、頑張れ!近衛幹大っ!
「だって、あのプー子だぜ?赤ん坊の頃から苦楽を共にしてきて、たぶん、アイツの裸を見たって勃たたないね。俺は!」
プー子の裸を見て勃たつか否かはわからないが、=いや、俺のことだ、勃つだろうなあ= けど、プー子との男と女のああいったイヤラシイ場面は絶対に想像が出来ない。俺は、三ツ矢さんに言えといわれていたダメ押しの言葉をショーニィにぶつけてみる。
「ショーニィだってそうだろ?抱けるかよ、プー子?」
「あ?」
「いっくらデカイおっぱいだからって揉んで、わしわし揉みまわして、ガンガンとか突いちゃって、ひーひー言わせて」
/バコン/
「イテッ!」
って!頭から火花出た。マジ、本気でぶちやがった、ショーニィ。目から涙が出ちゃってるううっ、、俺、、、
「ばっかやろお!何言ってんだ!幹大!お前はアホか?!」
うわあああ、怖いよ。怒りマックスじゃんか。ド迫力だぜ。こうなるの知ってたのに、三ツ矢さんがわざとショーニィを挑発しろって。
「くっだらねえこと言ってねえで、さあ、メシ食いに行くぞ!」
怒りマンマンの背中を俺に見せて、ショーニィはずんずんと居間を横切って行く。もうこれ以上は何を言っても無駄だ。つうか俺、いきなり小走りでショーニィの後ついてってるし、、ショーニィの命令は昔から絶対で、結局俺は、逆らえない。けれど、何となく、ショーニィ、、怒っていたけど、、顔、少し赤くなかったか?いや、、まさか、、、想像しちゃったとか?
「待てよ!何食いにいくのさ?」
情けねえ。結局ショーニィの後を走っている俺。でも三ツ矢さん、俺頑張りました。今度会った時は、3連発+1バックでお願いします。うっしっしっし、、つうか俺、親父度ハンパねえ!
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