1.
祖母がメキシコ人だったという男には、情熱のラテンの血が4分の1流れている。けれど残りの4分の3は、本心を見せたがらない日本の血。だから、ときどき、わたしは彼がわからなくなる。だって、高校生のときは優しくて穏やかな笑顔で、誰にでも平等で、、、わたしはそんな優しい彼に惹かれた。わたしみたいな何の取り得のない人間でさえ、彼は許してくれそうで、、それなのに、、、
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「ああ、ああん、もうだ、めえ、、」
吉澤桃子の声はすでに悲鳴に近い。乏しいセックス経験と本人が思うように、彼女はあまりセックス自体が気持ちがいいと思うことはなかった。けれど、水沢丈太郎に抱かれるようになって、、、それは、
「ん、んん、ああ、ああああ、、イク、イク、、、」
『イク』、、そんな言葉を何度も繰り返す。彼の大きくて逞しい胸が桃子の背中にぴったりとついた。恥ずかしい四つんばいの桃子の体を大きな獣がその上を覆いかぶさる。やがて丈太郎の両手で、桃子の胸をわし掴みにする。彼女の中には水沢丈太郎の猛々しい大きなものがすでに突き進んでいく。
「ああああ」
その力強い擦りあげに、腰が勝手に動きさっきよりも高く突き出しながら、桃子はたまらずシーツを握りしめる。
動物の求愛のようなバックは、相手の顔を見ずにすむ体位。感じている振りをしても演技が見破られない。だから、桃子は、つきあってきた男たちとは、大概バックでの体位で突かれる。けれど、丈太郎とのセックスは違った。後ろから挿れられて、小ぶりの胸を揉まれ、今、桃子は狂ったように腰を振る。
「いや、いやあああ、み、水沢君っ」
いやと言えばいうほど、丈太郎の腰は激しく桃子に打ちつける。パンパンと淫らな部分の肌がぶつかりあって、それが余計桃子の興奮を煽る。
「吉澤さ、、ん、、イって?」
丈太郎の激しい動きとはウラハラに、桃子の耳元でささやく声は限りなく甘い。桃子の背中がゾクリとする。
「ああ、ああん、もう、、いやああ、、」
/パンパンパンパン/
「あああああん、イクイク、あああああ」
すごい速さで強く激しく打ち付ける丈太郎の腰使いに、桃子の限界が近づいた。丈太郎だってわかっているはずなのに、絶対に、手を緩めない。非情な動きに、桃子の息使いが、途切れ、やがて、彼女は意識を手放した。
それは一瞬のこと。真っ白になった桃子が目をあければ、すでに仰向けになっていて、丈太郎の優しい瞳が視界いっぱいに映り込む。
「今度は、、」
丈太郎の欲情はまだ解き放たれていない。いきなり桃子の唇を奪い、舌を絡め始める。
「んんん、、あっ」
キスが上手い男は、すでに一度のぼりつめた桃子の体に簡単に火をつける。桃子は両手を、彼の首に回し、舌を絡めながらじっと丈太郎を見つめる。
何て美しい男だろう、、いつも桃子はそう思う。濃い眉にバランスのよいアーモンド形の目。極めつけは、長い睫毛、、、そんな男の瞳と目が合えば、桃子の腰がまた反応し始める。
「今夜、壊しちゃっていい?」
巧みなキスを繰り返しながら、丈太郎は、そんなことを囁く。
『俺、ガイコクジンとしかやったことがない、、』
急にあのときの言葉が桃子の耳に蘇る。水沢丈太郎は、かなりセックス経験があると言った。そんな女たちに、こんな激しいセックスをして、壊すくらい、彼はいつも欲望をたたきつけてきたのかと思うと、桃子の胸がチクリと痛んだ。
「もっと、して、、、いっぱい、、して、、」
桃子の口から漏れた言葉、、、らしくない、、けれど、彼女の本当の気持ち。丈太郎の全てがほしい。彼の全てを、、
「いいの?俺すごいよ?」
ニヤリと笑った丈太郎は、桃子の手をとって、自分のソレに触らせる。
「あん、」
すでに大きくドクリと脈打っている。桃子は優しくそれを包みながら、シゴキ始めた。
「うう、、いい、、ああ、、」
丈太郎の口から漏れる快楽の吐息。桃子は嬉しくなって、指を丁寧に上下へと動かし始めた。
「ああ、いい、、」
吐息を漏らす丈太郎は本当に色気がある。こんな顔を今までどのくらいの女たちに見せてきたのだろう。そう思うと、桃子はもう我慢が出来なくなった。どろりとした汚い嫉妬が胸をうずまく。桃子は、彼の胸を優しく押した。それは、彼女がそれを咥えようとする意思表示。けれど、丈太郎は、目を細めてクスリと笑った。
「だあめ。これはあげない。」
そんな意地悪を言いながら、桃子の両足を大きく開かせた。
「いやあああ、あん、、」
何もされていないのに、ただそこに漂う空気でさえ、桃子の恥ずかしい部分を刺激する。もうかなり濡れているに違いない。
「吉澤さん、、すごい、、もうドロドロ、、、」
自分でわかっているのに、そんなことをまた言葉で言われてしまう。恥ずかしくて体がピンクに染まった。
「ああああああ」
彼は再び容赦なく一気に入り込む。それなのに、今度は浅く抜き先を繰り返し、桃子はもどかしくなる。もう、そこまで来ているのに、逃げていく。まるで小さな波が押し寄せてくるけれど、ソコと思うときには引き波のように逃げていく。水沢丈太郎は意地悪だ。付き合い始めてわかることがたくさんある。彼は優しいくせに、穏やかな顔で、桃子にささやき、そして、桃子がほしいと思うとクスリと笑って逃げていく。
「み、水沢、くん、、ああん、もう、意地悪やめて、、ああん」
桃子の泣きが入った。
「だめ。吉澤さんのこんな顔、アイツにも何度も見せてたんでしょう?」
果たしてどんな顔だろう、、、桃子の頭には、水沢丈太郎と親密になる前に、直前まで彼女の中を駆け抜けて行った、東城の顔が思い浮かべる。彼は優しい先輩だった。桃子が、本当に生まれて初めて、逃げずに自分の気持ちをぶつけたときでさえ、彼は責めることさえしなかった。
『知ってたよ。桃が流されてたの、、、でも俺が、桃を可愛いと思ってたから、、俺が桃に触れたいといつも思ってたから、、だから、、、いつも俺からの一方通行だったし、、でもいつかは、この思いが桃からも返してもらえたら、、そう思ってた、、、』
東城は本当に優しい男であり、よき先輩であると桃子は思う。体を合わせた上にすでに別れた男と、同じフロアでずっと働かなくてはならない。どんなに、気まずい思いをするだろう、、、そう思っていた。だが、東城はいつも笑みをたやさなかった。しいて言えば、、、敢えて桃子と二人っきりになることだけは避けよう、そんな意志が見え隠れていた。
「どんな、顔って、ああ、ああああ、水沢君、やああ」
桃子がふと東城を思い出したのがわかったのか、丈太郎の動きがイヤラシク淫らに激しく桃子を深く突き始めた。
「今、誰かのこと考えてた?」
「えっ?」
「俺とのセックスをお預けさせて、ソイツとヤッテタ?」
丈太郎らしくない挑発的な言葉。まるで見も知らぬ東城に嫉妬でもしているようだ。だが、桃子は知っている。
「ああ、あああ、だめえええええ」
桃子の体が壊れていく。ギシギシ、ミシミシと音がするのは互いの結合の部分だけではない。桃子の血がかけめぐっていく全ての部分が、今官能の波に流されていくのだ。
「ああ、いい、いい、いくううう」
水沢丈太郎は、嫉妬などしない。確かにセックスは情熱的で激しいけれど、それは物理的に体を合わせているだけでしかないから。
「俺も、、吉澤、、さ、ん、、あっ」
丈太郎の掠れた声に、桃子はたまらなく体が震えていく。同時に彼も上り詰めたようで、ドクリ、、ドクドク、、、全ての欲を吐き出し始める。
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「大丈夫? 無理させた?」
丈太郎のアーモンド形の瞳が、桃子を心底案じているように思えた。だが水沢丈太郎は、どんなときでも冷静だ。淫らな行為が終われば、彼は普段どおり、大人の顔をする。優しい顔で、穏やかに桃子を見つめる。
「吉澤さん?俺、、今夜は、まだ足りないんだけど、、、」
持て余す彼の体力に、桃子は驚きの声を隠せない。
「えっ?」
けれど、欧米の女性は、おそらく体も大きく体力もあるに違いない。丈太郎の持て余す欲情など、いともあっさりと受け入れて、彼を満足させてきたのだ。ただ、丈太郎と付き合い始めて桃子は、少しだけ変わった。
「わたし、、もう、、無理だと、、思う、、今夜は、、」
「えっ?」
「だって、すごくて、、もう無理、、、眠い、、」
桃子は出来るだけ、自分の意志を伝えること、、努力をしようと試みる。だから、今夜の激しさに体はもう限界なのだと、そう告げた。丈太郎の瞳が少しだけキラリと光ったように思えたが、桃子はそれに気づく余裕さえなかった。
「そう、、か、、、ごめん、、ね。無理させちゃって、、吉澤さん。」
彼の長い指先が桃子の髪にふれる。優しく撫でられながら、桃子はやがて心地よい眠りの中へ入り込んでいった。
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