続編:キッスの上手い男

最終話

「聞こえる?俺の鼓動?」

/ドキン、ドキン、ドキン/

桃子の耳元で、丈太郎の鼓動の音だ。激しく速く走り出している。

「ドキドキした。吉澤さんの言葉。」
「や、もういいって、恥ずかしいから。」

桃子は丈太郎の胸に顔をうずめていたが、耳まで真っ赤になっていた。

「これで、もう、絶対離さないから。」
「うん。」
「吉澤さんが言ったんだからね、俺がいないと無理って。」
「うん。」
「あなたが言ったんだからね、嫌わないでって、心が壊れるから。」
「うん。」
「俺がいないと生きていけないって、、」
「、、、、」
「ずっと、俺があなたの心に住んでたって、、ずっと忘れられなかったって、、」

自分が言った告白をしつこいくらいに復唱されて、やがて桃子は恥ずかしくなった。抱きしめられていた胸に両手をついてガバリと体を離した。

「そ、そっちだって言ったじゃん。自分が思っている以上にわたしのことがスキだって!」

顔を真っ赤にした桃子の瞳に、口角をあげてクスリと笑っている魅力的な丈太郎の顔が映りこむ。

「そうだよ。俺、吉澤さんのこと手放す気ないから、、、愛してるから。」

愛してる、、人から言われたのを聞いたのは生まれてはじめてかもしれない。丈太郎の口から零れ落ちる、その言葉は何てステキに響くのだろう。

「吉澤さん、愛してる。」
「あっ」

唇が覆われる。丈太郎の巧みなキスに、桃子の下半身がキュンと反応をする。丈太郎の舌が執拗に、桃子の口内を犯しながら、桃子を淫らに誘う。

「だ、だめえ、、あん」
「そうだね、今夜はしない。」

丈太郎は余裕の声を出した。ささやきながら、それでも彼の舌の動きはとまらない。

「あ、、あん、、」
「したくなっても、、今夜は、、できないんだよ?吉澤さん?」

この男のキスは本当にうまくて、桃子の体も心も溶け出していく。

「だ、だめ、、わたし、、我慢が、、」

桃子の吐息がもれ、言葉にならない。腰が勝手に動くのを止められない。もうきっと濡れている、羞恥心に耐えながら桃子も必死に彼の激しいキスに答えていく。何てタイミングが悪い夜なのだろうと、自分の月のものが恨めしい。

「今夜は元カレのために寸止めされるわけじゃない。あなたの体が無理だから、、、だから、、、前と同じ寸止めだけど、同じじゃない。」

桃子は初め丈太郎の言っている意味がわからなかったが、すぐにあの日のことだと理解した。あの日、公園でキスをした二人。けれど、東城との関係をきちんとするまで、、そう言ってセックスはしなかった、あの日。丈太郎はあのとき、わかったと言ってくれたけれど、結局ずっとずっとシコリが心の奥で痛みを持ち大きくなっていたのだ。

「うん、、ごめんね。」

桃子はギュッと丈太郎を抱きしめると、彼もギュッと抱き返してくれた。そして耳元でそっと丈太郎はささやいた。

「大丈夫。だけど、終わったら、、、覚悟して?」

桃子は真っ赤になったまま、その温もりの中で優しい気持ちになっていった。



*****

「ああん、あんあん、あああああっ」

生理が終わってすぐにホテルに誘われた。そこは、初めて連れ込まれたぼろぼろのラブホとは大違いで、丈太郎はかなり奮発したのか、夜景の見える豪華な一室。部屋を暗くしても、大きな窓から、都心の明かりが活気づいてキラキラと光っている。



『ね、閉めて。カーテン。』
『だあめ。』
『見えるよ、外から。』
『平気、部屋を暗くするから、、』

丈太郎の意地悪な言葉に、これから始まる淫らなことに、桃子は胸の高ぶりが押さえ切れなかった。




/ギシギシギシ/

どんなに頑丈そうなベッドでも、丈太郎の大きな体が激しく上下すれば、ひとたまりもない。桃子は丈太郎の下で、悦楽の波に飲み込まれないようにと必死に抵抗をする。

「いい、ああん、あああ、、だめえ、、」

だが丈太郎の執拗な突きに、限界がのぼり詰めていく。桃子の嬌声が大きくなる。すでに何度目かの丈太郎の挿入に、桃子の体はけだるい疲れが訪れて、それでも快楽の波はやむことを知らない。

「んんん」

丈太郎のうめきが、時折聞こえ、それが桃子の充足感を促す。

前に手だけでイッテしまったときのあのひどく小汚いラブホは、丈太郎がわざと選んだのだと最近彼に告白させた。それは、丈太郎がものすごく桃子に腹を立てており、だがその意味不明の怒りがまた丈太郎のイライラを募らせていたと。

 

『結局吉澤さんのことが気になってしかたがなかったんだ。俺。だけど、あんな仕打ちされて、、今さらって、、男のプライドかな?』

 

あんな仕打ちとは高校時代、桃子が照れ隠しで言ってしまった、『水沢君はメキシコ人だから、外国人とのキスって興味あるから』例え桃子の本意ではなくても丈太郎はそれを聞いて激怒した。ずっと怒りの炎が心にくすぶっていたのだ。一生、水沢丈太郎に許してもらえないと思っていたのに、こんな風に彼に執拗に求められる日がこようとは、、桃子は丈太郎に求められ快楽に溺れ、やがて享楽の終わりがいつも夢なのではないかと思う。

「何考えてるの?余裕だね?」

意地悪そうに唇の端をあげて、いきなり桃子の右の胸を指先で触る。軽く、軽く、その流れるような動きは、くすぐったいような、けれど、ある部分にくれば、桃子の性感帯を刺激する。

「あん、あああん、いや、」
「だあめ、最中に考えごとできるなんて、余裕ありありでしょう?吉澤さん。」
「ち、ちが、、あん」

丈太郎は、長い指先で桃子の乳首をチョンと刺激した。それから、また小ぶりの胸を揉みしだく。その間も、彼の律動はゆっくりと奥へ奥へと抜き差しを繰り返している。もう桃子の中を知り尽くした丈太郎のモノは大きく猛り狂いながら、桃子の内壁をギチギチと擦りながら、進んでいく。桃子の導く暗闇の形と、彼のモノがぴったりとはまり合い、一番感じる子宮奥を突き始める。

「や、やあああ、あああ、あああん、いい、いく、
いくいく みず、さわくんん、いくううう、」

ズンズンと速くなる動き。桃子の細い体の上で逞しく大きな体が上下する。桃子を傷つけないように、丈太郎の腕で彼自身の体重を分散させている。それでも丈太郎の圧を体全体で感じながら、今夜数え切れない絶頂の波がまたそこまで来ていることに抗らえない。

「だめ、イカセナイ、、もう、、すこし、、我慢して。」

時々ひどく意地悪なことを言う男。丈太郎が吐息をもらし、そして己を桃子に強く打ちつける。何度味わっても味わっても慣れることのない快楽に溺れていく。どうして、この男は、こんなにも自分の弱いところを知り尽くしているのだろう。

「あ」

桃子を擦りあげる。一番弱いところ。丈太郎の大きな質量を感じながら、グチュグチュ淫らな音さえも、桃子の耳の遠くで鳴っていた。

「いくよ。」
「ああああああ あああ、すご、いい、ああん、だめええ、いくうううううううっ」

桃子の嬌声が狂ったような叫びに変わる。丈太郎の腰使いが激しく律動を増していく。

「ああ、、んん」

色めいた丈太郎の掠れ声を聞きながら桃子の意識が飛び散った。



 

*******


きっとそれはいつも一瞬の出来事。目を開けるといつも水沢君の心配そうな顔が飛び込んでくる。でも今夜は違った。なんとなく朦朧としている中で、わたしの背中に温もりを感じた。大きな腕でわたしを少しだけ引き上げた。彼にかかるとわたしの体なんて自由自在に動いてしまう。何て優しく抱きしめてくれるのだろう。

「目覚めた?」

彼にはわたしの顔は見えないはず。背中からそっと抱きしめられわたしは彼の体に体重を預けているのだから。けれど、、わたしのちょっとした筋肉の緊張を感じ取ったのかもしれない。

「う、、うん。」

「大丈夫、痛くない? また無理させたから。」

その言葉にフラッシュバックのように自分のあられもない姿が蘇り、真っ赤になった。

「わ、わたし、、声、、大きく、、なか、った?」

狂ったような自分の嬌声が耳にこだました。恥ずかしい。恥ずかしすぎる。

「大丈夫だよ。」

優しい声だ。そうか、彼のお相手はみんな異国の人ばかりで、彼女たちの喜怒哀楽と比べたら、日本人のわたしの快楽の表し方なんて大したことはないのだろう。

「比べないよ。」
 

 

な、なに? 何のことだろう、、

「吉澤さん、、俺、、比べたことないから。」
「えっ?」
「比べられないから。」
「な、なに?」

「だって吉澤さんだけだから。俺をこんなに変態にするの。」
「な、何、言ってんの?」
「他の女のことなんてぶっ飛ぶくらい、俺をこんな風にエロエロの怪物にするのは。」
「エロエロ?親父みたいなこと言わないでよ。水沢君。」

プッと吹き出した途端、体が前に動きそうになったけれど、彼はその動きすらも許さないように、ギュッと後ろからまた抱きしめた。

「吉澤さんといると、俺、優しくなれないかもな?」
「優しいじゃん。水沢君、優しいじゃない。」
「けど、、何だか、あなたといると、メキシコの血が騒ぎ出す。」
「嘘つき。」
「えっ?」
「水沢君、冷静で意地悪になる。わたしの知ってるメキシコ人はもっとフレンドリーで単純な気がするもん。あれ、メキシコの血じゃないと思う。」
「あれ?」

「あ、、えっちのとき、、、」

こんなこと言わせないでと思いながら、顔が赤くなるのがわかった。よかった、彼の顔が見えなくて。


「なら、日本とメキシコが両方いっぺんに出てるんだ。きっと、複雑になっちゃうんだ。ふっ。」

首筋に彼の息がかかった。自分で言って少し可笑しかったみたい。

「でもどちらの血も、結構しつこいから。意地悪のときも、冷静のときも、優しくしているときも、熱情にうかされるときも、、、どんなときもしつこいから、俺。」
「、、、、」

「だから、俺、絶対、、手放さないから。」

彼の腕に力がこもり、わたしの体に伝わっていく。キュンとした。胸が切なくキュンとした。

「もも、、俺、、愛してる。」

なんて甘い響きなんだろう。情熱も冷静さも同時に持ち合わせる水沢丈太郎。優しくて大人で、淫らで激しくてイジワルで、、、この男の美しい唇から紡がれる言葉。でも こんなにも幸せで満ち足りていく魔法の呪文。わたしも言わなきゃ。だけど、、、もう一回だけ、ささやいて?

「ね、、もう一度、、言って?」



*** 了 ***

お読みくださりありがとうございました。二人のあれこれなど、サイトのつぶやきのブログに記しておきますので、よろしければ覗いてみてくださいませ。

 

 

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