シークの涙 第二部 永遠の愛

1.

「マダーム、ここにサインを。」

/スラスラ/

「おーサンキューマダーム。これで手続きは以上です。今日はわざわざご足労いただき大変恐縮でございます。次回は、奥さまのお時間を煩わせることなく、わたしどもでお伺いさせていただきますので。」

英国製の仕立ての良いグレイのスーツの襟をなでつけて、マダムと呼んだ相手に深々と頭を下げた。それは少しばかり異様な風景に映った。


「ねえ、あの人でしょ?」
「えっ?まじか?ただの子供じゃないのか? 」
「だってうちの頭取があんなに頭を下げて、、」
「だけど、まさか、あんなに若い小娘に?」


PCAバンクは、ペルーシア王国のメガバンクで、国内外問わず多くの富豪たちを顧客に抱えている。現在頭取が自ら顔を出したのは、PCAバンクの最上階にある超一流ビリオネアーを接客するフロアーだ。顧客の残高が何十億を超える特別富裕族担当窓口では、行員たちも沈黙が一番の出世の早道と心得ているものの、今見た光景だけは、さすがのエリートたちも思わず声を漏らしてしまう。身なりはよくとも、どうみてもまだ10代と思える小娘に、王国でもその実力で名を轟かせている尊大な頭取ハマスが、うやうやしく頭を下げていたからだ。こんな異様とも映る光景には行員たちも、驚きのあまり無駄口を叩いてしまった。
勿論、ここは特別富豪客フロアーのため、=今出て行った女以外、客はいないとしても= 頭取秘書は周囲の私語にコホンと咳払いをした。彼に睨まれた行員たちはすぐに自分の仕事への集中力にエネルギーを費やし始めた。

「随分と、愛らしい夫人でしたね。とても第一夫人とは思えない。」

あまりに細すぎる、ギスギスした体に覆った高級スーツの前ボタンを外した秘書室長は、眼鏡のフレームを神経質そうに少しだけあげた。先ほど部屋をボディーガードと共に去っていた女を思い出し、頭取にささやきかけた。

「うむ。どうもなんとも、、、、」

何とも合点がいかないばかりだが、先ほどの愛想の笑いが顔からすでに消えた頭取は、メガバンクのトップに収まる権力者の顔に戻りながら秘書室長の問いかけに同意した。

「だから、本日は、奥さまをわざわざここまでご足労いただいたわけですね?」

室長は少しだけ下世話なニュアンスをこめ、頭取を促した。つまり彼女の人となりを見極めたく、頭取自ら、今日、この銀行にわざわざ呼んだのだが、、、

「うむ、、今一つ、何とも、、、あんな子供で、しかも口の聞けん、、」

思わず差別用語を口走りそうになった頭取は、さすがに言葉を飲み込んだ。失言はどこでどんな聞き耳があるかわらない。考えもなしの口から漏れでた言葉で人生が狂わされていくことなんてごまんとあるのが世の中だ。ハマス頭取は、そのまま口をつぐみ、室長もそれ以上私語は慎んだ。

PCAバンクは元々、地元の財閥が基礎を起こし親族たちでゆるく経営していたのだが、近来メガバンクにまで成長したのは、このハマスの功労でしかありえない。彼が入行して以来、めきめきと頭角を現し、ビックな顧客を増やし、海外にも有力な取引先のパイプを何本も作った。経営にもメスを入れ、親族達を次々と退陣させ、最終的に彼が頭取におさまったのだ。この男の経済の動向への鼻の効き方は尋常ではない。ジョセフ・リドリーでさえも、大きな取引を起こすときには、ハマスの意見を聞くといわれていた。その男が、今回のモーセの結婚に何やら腑に落ちない感がやまないのだ。

ペルーシア王国を占める最大部族トリパティ族を束ねる長、シーク・モーセ シャリマール モイーニがこの度結婚したことを発表した。王族以上に富と力を持つと言われるこの国の実力者の結婚とならば、王国に知らしめる盛大な婚礼をあげるはずだ。だというのに、モーセはそれを拒否し、内輪だけで婚姻を祝い、結婚した事実を公的に発表しただけだ。会見も何もなかった。彼のスポークスマン、側近のラビ アシュウカによれば、異国の花嫁の精神的負担を考えて、まずは王国の生活に慣れることを最重要課題として、1年後に盛大な披露パーティをする予定だという。それならば、何故あと1年じっくり婚礼を待たなかったのだろうか。そのちょっとした謎に、ゴシップ好きな庶民や、また多くの有力者たちの熱い目が注がれている。巷でさまざまに流れる憶測、花嫁の重病説、余命いくばくもない花嫁にモーセが仏心を出して結婚の約束をしたということや、妊娠説、あるいは偽装結婚まで飛び出した。

現在モーセが所有している投資ビジネスは順調で、お陰でペルーシア王国の経済も潤っている。だが、彼の動向ひとつでこの国の経済が容易くゆるがされることもまた事実。だからこそ、ハマスは銀行家としての本能がこの結婚を重視し、もし何か裏があるのならそれを探らなくてはならない。果たしてそれは、、まず、花嫁重病説はありえないことだ。先ほど見たばかりの花嫁は、声に問題を抱えていたが、幸せに包まれた健康な花嫁そのものだった。バラ色に頬を紅潮させていて、とても大病を患っているようには見えなかった。その上、昔から知っているモーセと言う男が、情けや同情で動く人間ではないことは明白だった。では、妊娠説はどうだろう。モーセ自体は、無宗教だが、トリパティ部族の多くは回教徒といわれている中で、結婚前の妊娠が事実であれば、これは部族の中の不穏を招く可能性はあるだろう。特に部族の長老たちは、婚前交渉というものに、あからさまに嫌悪を示す。例えモーセといえども、彼らが厚く信仰している宗教は、婚前交渉を悪と考え厳しく禁じている。それなのに、シーク自ら結婚前に未来の花嫁を妊娠させたということが事実であるならば、 宗教を軽んじ敬虔さに欠ける行いといえるだろう。崇高な教えに、あからさまにツバをはくような侮蔑行為だ。

「モーセ シャリマールの突然の結婚、、しかもお披露目もせず、戸籍だけを入れる役場婚礼というのは、シークの婚礼としては前代未聞ではないですか?」

一般庶民の結婚ならそれも有り得ることだが、どの部族のシークの婚姻に至ってはお披露目をしないなどとは考えられない。ハマス頭取の心中を推し量ったように、ワクザワール秘書室長が指摘した。

「君はどう思うかね?」

秘書室長のワクザワールの意見を聞くことにする。

「近々、トリパティ部族は、シークを失ったダンマー族を統合するのではないかという噂もでております。」

ダンマー族の長は、殺人罪及び未遂罪で服役中のアショカ・ツールであり、王国の裁きとしては珍しく、国の権力者に禁固180年という刑を下した。これは王国史上 =財界政治界などの権力者としては= 最も重い刑だと言われている。現在、ダンマー族は長であるシークを失って宙ぶらりんだという。

「アショカ・ツールには二人の未婚の娘がいます。わたしの情報網ですと、本来はそのうちの一人と婚姻をするはずだったのが、突然のアショカの逮捕。これによって、トリパティ族の長老たちがこの結婚にこぞって意義を申し立てたという話です。」
「ああ、あの両極端に育てられた娘たちのことだな?」

アショカ ツールは、二人の娘を一人は西洋的に、もう一人はペルーシア的に育て上げた。頭取はその二人の娘を思い出し、いずれにしても、先ほどの小娘 =モーセ モイーニの第一夫人= とは比べものにならないくらいの美しい娘たちを思い出していた。

「つまりモーセ モイーニとしては自分の子孫は残したいが、長老たちの文句の出ない嫁を娶らなくてならない。幸い、たまたまこの国に遊びに来ていたあの娘、いえ、第一夫人は、もとは、モーセの従姉妹サビーン嬢の友人、尚且つ、公式情報によれば、ジョセフ・リドリーの命の恩人の娘だということでした。彼女を娶れば、リドリー大臣を牽制できるでしょうし、トリパティ族にとっても悪い話ではない。そんなところでしょうか?」

「とどのつまり、君の結論では偽装だと?」
「ええ。それ以外に考えられませんよ。もうすぐ23になる娘と言えばまだまだ夢見る年頃。贅沢にさせておけばそれだけで満足するでしょう。またあのハンディキャップでは、彼女が文句を言うこともない。そういう単純な妻を第一夫人に据えれば、モーセとしては、あとは自由に好き勝手に出来るかと。」
「ふむ、、では、アショカ・ツールの娘とまだ懇意だというのかね?」
「さあ、それはどうでしょうか?ただ、まあ、わたしだったら、アショカ・ツールのお嬢さんのほうがいいですねえ。」

秘書室長は、その無表情な顔に、一瞬、好色な色を浮かべた。先ほどの女と、アショカの娘たちを比較しているのに違いなかった。

「まあ、先ほどの第一夫人は、実際庇護欲をそそられますからね、モーセ モーイニがそういった性嗜好があれば、また話は別でしょうが。ましてや、巷でちらほらと耳に入る、彼があの夫人に骨抜きにされているなんてことを信じるくらいなら、シークが異常性癖の持ち主だという方が、まだリアリティーがあるということでしょう。」

ワクザワールは皮肉そうに唇の端をあげた。その言葉を聞きながらハマスはじっと考え込んだ。

果たして偽装結婚というのがモーセの真意なのだろうか。陰でアショカの娘たちと通じ、彼は部族勢力をまた一段と広げていくということか。確かにアショカの長女アマルは、イギリスでの留学をきっかけに長くに渡り向こうに住んでいる。そのお陰で人脈も広いと言われている。モーセの投資事業は、先頃、また所有した王国の鉄道株のお蔭で莫大な儲けを生み出している。それに飽き足らず、今後もヨーロッパの投資家たちと新ビジネスに着手するという話も耳に聞こえてくる。モーセの動向をしっかりと把握しなくては、PCAメガバンクのより輝かしい未来はないだろう。






*****

「んんん、、、う、、、」

音にならぬ呻きのような、空気が漏れていくような、そんな苦悶の音がモーセの耳を刺激する。ハナは、モーセを自分の中に受け入れることにまだ慣れていない。彼の猛った熱いものが入ってくるとき、一抹の痛みを覚えるのは仕方がないことか。だが初めてのときに比べれば、、、と思う。モーセは何度も慣らしてハナに痛みが少しでも及ばないようにと、辛抱強く慣らしてくれたが、それでも初めてのときの激痛は一生忘れられなかった。

今だって苦しくてしかたがない。苦しくて甘い疼きのような、、彼のモノは大きくて、そして彼女の狭い道をこれでもかというくらいにぎゅうぎゅうに入り込んでくる。中に入った途端、今まで以上の質量を感じ、ハナの鼓動は狂うくらいに早鐘を打ち、息が苦しくなってしまう。だが、モーセの大きな手がハナの下腹部を優しく刺激してくる。

「ハナ、、」

耳元で低く甘く囁かれば、ハナの下半身がぎゅっと収縮してしまう。

「うっ、ハナ、そんなに締めるな、、ハ,、ナ、、」

苦しげに呻くようなモーセの瞳と目があえば、彼の瞳は情熱で燃えたぎっているように見えた。何て色香のある人なんだろう、、、ハナは、うっとりとしながら、彼の背中にぎゅっと手を回す。刹那、モーセがそろりそろりと上下に動き始める。いつものように、ハナの負担を考えるように、ゆっくり優しい動きだ。だが、一見そんな優しそうに見えるモーセの動きも、全ては彼の計算通りだ。

「うっ、、ひゅ、ひゅっ、、んんんん、、、」

ハナのつらそうな息使い。その苦しみは不思議で、焦らされて焦らされて、擦られて、ゆすられて、やがて快感にがんじがらめにされていく。自分の意識とは離れて、あまりの快楽の渦に体がピクリ、ピクリと勝手に反応を繰り返す。早く楽になりたいのに、モーセはもてあそぶように何度も執拗に攻めては逃げていく。その苦しみを終わらせたくて、せがんでいるような涙目でモーセを見つめる。モーセの唇からふっと息が漏れる。

「自分で動いてみるか?」

本当にツレナイ意地悪な男だ。ハナは真っ赤になってふるふると頭を振った。先ほどから体位が変わりいつのまにかハナはモーセの上に跨っていた。ただでさえも下から見上げてくるモーセの瞳に耐えられないと言うのに、、、恥ずかしさで瞳だけはぐっと睨んでいる。けれどすぐに下からまたズンズンと突き上げられハナの体は快楽に揺れる。

<や、やああ、あああん>

音として出ないハナの叫びは彼女の揺れ動かされる肢体と切ない表情でもうすぐ絶頂の波が来ることを知らせる。ハナの中がきつくそして蠢き、モーセも己の限界を感じる。モーセが再び体勢を変えた。くるりとハナを自分の体の下にいとも容易く組み引いた。そしてモーセの腰が強くハナの体をうつ。

<あ、、、>

ハナの細い体がしなる。小枝のような頼りない肢体なのに、鞭のようにしなやかでゴムのように弾力がある。モーセはにやりと笑った。もうすぐ淵まで来る。快楽の淵だ。彼の体は優しさを忘れたように、力強くズンと奥へ進んではゆっくりと名残惜しそうに引き、またズンズンと腰を打ちつける。

/パン、、ずんずん、、パンパンパン/

容赦なく打ち付ける激しい動きに、ハナは眉間に苦しさをたたえ、背中を弓なりにそらした。だが、その苦悶の表情は、どこか甘く、どこかなまめかしい。何度も何度もモーセに抱かれ、未だきついギチギチとしたハナのソコは、蜜があふれ悦びを知っている。もう少し、もう少し、奥へ、、、、ハナの鼓動がトクリトクリと跳ねあがり、息使いが荒くなる。

「はあ、はあ、ああん、はあ、」

モーセは力を緩めず、ドンドン強く腰を叩きつける。

「はあ、あ、、、」

ハナの黒い瞳と絡み合う。彼女は潤んだ瞳をモーセに向け、時折、唇が震えていた。たまらない。こんな顔を見せられては、、、ハナをめちゃくちゃにしてしまいそうだ。モーセの大きな体の中で、その小さく華奢な体を震わせている。生まれたばかりの雛のようで、庇護欲をそそられるのに、時折見せる女の顔に、モーセのモノがまた大きくなった。

「ひゅうっ、、、ん、、、」

彼の質量がハナの内臓まで圧迫するようで、ハナは呻いた音を出した。だが、そこにモーセの唇が下りてきた。

「う、、、」

言葉にならない音がハナから漏れた。小さな体が、ずんずんと激しく動かされ、こんなにも辛いのに、何故こんなにもトロリとした感覚になるのだろ。怖いくらいの快楽の波に襲われそうで、ハナはしっかりとモーセのたくましい腕をギュッと掴む。モーセは辛抱できなくなったようで、一層上下に体を動かし激しさを増す。大きな寝台すらも、ギシギシと音を立てている。二人の絶頂がもうすぐそこにあるように、ギシギシときしむ音が速く益々過激に動き始める。

「ハ、、ナ、、、」

どんなに数々の女を抱いても、いつも迎えるこのときに勝るものはないのだと言わんばかりに、モーセの口から吐息が漏れる。それがゾクリとするくらい色っぽい。ハナの下腹がキュンとなった。

「う、、ハナ、、またきつ、、く、、ああ、、」

モーセが苦しげにハナを責めた。ハナは未だに己の体をコントロールできない。モーセから締めるな、もっと緩めろと言われても、快楽に溺れ、愛しさを感じ、幸せに満ち足りたこの瞬間に、どうすることも出来ない。

「イクぞ、、」

モーセの掠れた声が耳に聞こえたかと思うと、ハナの中が強い力でこじ開けられれていくように、彼のモノがドクリとなった。その拡張が一段とハナの暗い園をこすりあげていく。

<あ、>

激しい振動に誘われて、ハナの背中が弓なりになって、、、、

「んんん、、、」、

/ドクンドクンドクン/

モーセの淫欲が一気に吐き出されていく。早鐘のように打つ鼓動と、甘ったるい脱力感、、、ハナはぐったりと体をシーツに預けた。すぐにモーセの美しい顔が下りてくる。

「無理をさせたか?」

答えを必要としないモーセの問いかけは、ハナの顔に吐息を感じさせた。曲線に沿った少し開いた唇が、彼女の唇に触れていく。優しく甘く、、そして温かいその唇は、ハナの心を幸せで満たしていく。モーセの大きな手のひらがハナの頭を撫でながら、ハナは子猫のように喉をならした。

(モーセに愛されている、、、?)

未だ疑問符がつくのは、ハナにはまだ実感がない。こんなに体を求められ、妻としての地位も与えられ、こんなにも幸せなのに、けれど、心の奥に小さな小さな針ほどの穴があいているようで怯える気持ちが湧き上がる。ハナには未だ自信がないのだ。それは、彼女の心の弱さだけではなかった。毎晩求めてくるモーセでも、未だかつて、一度たりとも彼の子だねをハナの中にうえつけられたことはなかった。今だって、モーセは、そっと彼女の体から引き抜き、ゆったりとした足取りで洗面所へと向かう。それは、コンドームに溢れたモーセの精液を処理するためだ。ハナを情けで抱くのか、ハナを可愛がってくれているのか、けれど、シークの子孫を生むには相応しくないと思っている証なのだ。求められるのは嬉しいが、だが、モーセの全てが欲しい。人間は何と愚かで欲深い生き物なのだろう。ハナはシャワーの音を遠くに聞きながら、ヒタヒタと忍び寄ってくる一抹の不安と寂しさに、体をブルリと震わせた。



シークの涙第二部、再開です。
また皆様にご愛顧いただければ嬉しいです。
但し亀更新、、ご容赦くださいませvvv

『ふん!作者がノロマで困る!』

シークモーセのお言葉でございました。m(_ _)m

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