シークの涙 第二部 永遠の愛

8.

寝室に入れば、邪気のない顔ですやすやと気持ちよさそうに眠っているハナが暗闇の中で真っ先に瞳に飛び込んでくる。モーセは迷うことなく、ベッドに腰を下ろした。

/ぎしり/

. モーセの体がマットに沈み、寝ているハナの体が少し横に傾いた。

「ん、、う、、」

せっかくモーセ側に横顔を見せていたハナだが、安定しないマットに、寝返りをうとうとしているようだ。寝かせておけばいいものを、、、だが、己の女が、例え何の意図もないとはいえ、別の男に抱かれて寝かされたことが頭を過る。我慢できず、モーセの指先がハナの頬に触れる。絹のようなつるりとした感触はいつ触っても心地よい。

「う、、、、、ん、、う、、」

夢見心地のハナは自分の唇にあたたかい温もりを感じた。寝ていたいのに、その安心する温もりに応えたくなる。無意識に、ハナは反応を返す。ますます強く吸われ、少し息苦しくなった。うっすらと瞳に映るのは、あの美しくそしてたくましい男の顔。

<う、、モーセ>

夢なのか現実なのか、よくわからないままハナはにっこり笑った。

「ふっ、、起きたか?」

意識がはっきりすれば、モーセの顔がとても近くにあった。

<も、モーセ>
「ふっ」

彼の吐息がハナの肌を敏感にする。モーセの唇が下りてきて、ハナは目を瞑った。唇が触れる瞬間、

「いいんだな?」

モーセが揶揄するように囁いた。

「う、う、う、」

ハナの性感帯は首筋から耳にもあって、モーセの舌が首筋に沿って耳を攻めはじめる。

「ひ、、ん、ん」

声にならない音がハナの喉から発せられる。背中がたまらず反り返り、モーセの腕をギュッと握る。ハナが泣きそうな切ない顔をしてモーセを見つめて女の顔をする。モーセは我慢できないとばかりに、ハナの夜衣の前を乱暴にはずす。暗闇にハナの白い肌が浮かび、何とも艶めかしい。

「お前は、段々俺を誘うのがうまくなる、、ふっ、、」

ハナは嫌々をして、彼の愛撫から逃げようとするが、モーセの大きな手で両腕をあっさりと掴まれた。

/ガサリ、、/

モーセが片方の開いている手で、避妊具をつけようとする。いつもながら実に器用な所作だが、ハナの様子がおかしくなった。

「ん、んん、ん」

先ほどよりも益々頭を振った。

「んん うううう ううっ」
/ガサガサ がさ/

ハナが何度も頭を動かしそれと一緒に寝具の布がガサガサと揺れ動く。モーセの怪訝そうな声がした。

「どうしたのだ?」
「んん んん、、」
「どうした? ハナ?」

モーセの瞳に心配そうな色が浮かんだ。ハナは避妊具をつけてほしくないと必死に訴える。だが、モーセには伝わらなかったようだ。

「お前は、わたしを拒むのか?」
「んん、、んんん」

違う、違うと必死に頭を振り続けたが、ハナが否定すればするほどモーセには自分が拒否されているように感じるらしい。

「ふん!今更、何を、、、」

先ほどよりも乱暴に、衣服を剥ぎ取りはじめ、お陰でハナの両手の拘束がとかれる。

/ガシ/

ハナの華奢で小さな手がモーセの片腕を掴んだ。

「む?」

モーセが避妊具を装着しようとしている腕を阻止するようで、ハナはいやいやと首を振った。さすがのモーセも普段と様子のおかしいハナを不安げに見下ろした。

「どうしたのだ、ハナ?」

さすがに、営む最中(さなか)紙もペンもない。ハナは避妊具を指して、頭を何度も横に振った。これにはモーセもわかったらしい。

「なぜだ?ん?」

子供が欲しい、ただ、それだけなのだが、それを文字におこすことなくモーセに伝えるのは難しかった。モーセの瞳に珍しく不安な色が広がった。すると下からハナの両腕がモーセの首にからめられた。

「む」

モーセの顔を自分に近づけるように、そしてハナはモーセの口元にやおら自分の唇を覆った。目を瞑り、必死にモーセの唇を吸う。ハナは舌をチロリと入れ始めた。これにはモーセは驚いた。ハナからこんなに積極的に誘うことは初めてなことで、瞳に映る一生懸命なハナに煽られる。

「ハ、、ハナ、、? 」

モーセの吐息が漏れた。ハナの真意が伝わったらしい。尚も必死にモーセを誘うハナに、モーセの柔らかい声が漏れた。

「ハナ、、お前を妊娠させられない。」

ハナの心は伝わっていた。だが、、、ハナの体が固まった。目をあけて、不安げにモーセを見上げた。モーセは目を細め、優しくハナの頭を撫でた。

「今は、、お前が妊娠してしまったら、、俺は、きっと一生後悔するだろう、、、」

ハナの瞳に哀しみの色が広がった。体から力が抜けた。モーセはそれをどう受け止めたのか。だが、ハナの頼りなさげな瞳はモーセの自虐心を煽る。

「だが、俺はお前に憎まれても、、、お前のここに、、」、

モーセの言葉はハナの唇を塞ぎ、最後は全く聞き取れなかった。ハナの失望は、やがて、いつものような快楽へと色を変えていく。モーセの巧みな愛撫は、ハナの頭からなにもかもそぎ落としていく。

「うう、うう、」

モーセの長い指先が、また一本、と増やされ、彼女の中を刺激する。こすられ擦られ、また抜いてはいれる、たまらない。ハナの腰が勝手に動き始める。快感で、体中に痺れが走り甘い余韻に包まれた。胸の先端が痛いくらいに固くなり、その綺麗なピンクの蕾をモーセは口で、舌で、刺激する。ざらりと舐めては吸われ、転がされ、舌がはっていき、ハナは狂いそうになる。

「ひ、、んんんんん、んん」


ハナの瞳に涙がたまり、モーセをじっと見つめる。その瞳がどんなに男を煽るのか、ハナは知らない。ハナの体はほてり、頬が上気して、体中がほんのりとピンクに染まり始め、、、

<あ、、、>

いつのまにモーセは避妊具をつけたのか。何度もモーセを受け入れているハナのソコへ、モーセが入ってくる。まだ全部受け入れてないというのに、重圧がミシミシと体の内部を圧迫して、いつものように息もつけないくらい、熱く大きなモーセを実感する。

モーセの大きな体がハナの上で揺れ動く。ハナをつぶさないように、しっかりバランスをとりながら、上下にゆっくりと動きだす。

「あ、あ、、、」

ハナの吐息が荒くなる。モーセを見つめながら、瞳の端に涙がたまり、必死にこらえているようだ。この顔は本当にたまらない。モーセのタガがはずれる瞬間。ハナをめちゃくちゃにしてやりたくなる。モーセだけ、と、自分だけを求めてほしい。自分の名前を何度も何度も呼んでほしい。けれど、ハナは、瞳を潤ませながら、喉から発する言葉にならなない音で、快感に応えている。

「ああ、ハナ、俺の名を呼べ、、俺の名を、、、叫べ。はっ、う、はっ、はあ、」

モーセの呼吸も荒くなっていた。彼は何度もハナの中をゆすり、何度も何度もかき混ぜる。モーセの体中にも電流が走るように、快感で体が痺れはじめた。抱いた女に、これだけの快楽をもらったことはない。こんなにもモーセを狂わせる女は他にはいない。ハナはモーセの両腕をぎゅっとつかみ、オーガズムの頂点がもうすぐなのだと体中で知らせている。

「行くぞ?」

/ミシミシミシ/

寝台の軋みが激しく唸り始め、二人の波が押し寄せる。

「んんんん、、、」
「あ、ハ、、ハナ、、、、、、」

ハナの体が弓なりに反られ、ぴくんぴくんと体が痙攣する。同時に、ハナの内にも、モーセの屹立がピクピクと熱い白濁を吐き出しているのを感じた。例えスキン一枚隔てていても、モーセの熱さは感じることが出来る。けれど、スキン一枚でモーセを感じることは出来ても、モーセの子種を感じることはできなかった。


『モーセは絶対に女の中では達かないわ。そうでしょう?』


昼間のサビーンの言葉がハナの頭に蘇った。ハナは、モーセを誘惑することができるほど豊満な体も、熟した経験も持っていない。だから、彼がハナの体に翻弄することはない。現にいつもハナだけが乱れてしまうし、余裕綽々のモーセに見えるのに、、、それなのに、今までの女には決して射精しなかったというのに、何故自分だけが中に出されるのだろう。ハナが子を望んでいる限り、これが避妊具をしていなければ嬉しい話だった。だが結局彼はハナとの子を望んでいない。そんな中でモーセは欲望だけをハナに吐き出す。何故だか自分だけが、他の女たちと比べて、モーセに軽んじられている、そんな気持ちにもなった。自分だけが、今までの女たちと扱いが違うのだと、、漠然とした負の想いが、ハナの胸にのしかかる。

「なんだ?」

真剣な瞳で考え込んだハナを覗き込んだ。

「まだ、満足してないのか?余裕だな、ハナ?」

諌められたようで、ハナはハッとしてモーセを見つめれば、それは完全にからかわれているのがわかった。モーセの瞳が面白そうにキラキラとしている。真っ赤になったハナに、モーセがおでこに優しく口づけを落とし、そして、胸の先端にもチュっと音をたてた。刹那、ハナの体がビクンとなる。

<あ>
「待て、これ以上煽るな。」

彼はハナから己をゆっくりと引き抜いた。ハナの体がまた反応してしまう。なぜこの男はこうもハナをいともたやすく刺激することができるのだろう。

「ハナ、お前の胸、少し大きくなっている。」

淫靡にモーセの唇が少しあがり、ニヤリとなった。

「もう少し育てば、俺の好みなんだがな?」

ハナの瞳が大きくなって、真っ赤になった。

「あっはははははは!」

実に楽しそうにモーセの笑い声があがった。ハナの胸に幸せが込み上げる。こみ上げるのだが、、、それでも先ほどの色々な負の想いは拭い去れず、じわじわと、ハナの幸せをゆっくりと寝食してきそうで怖かった。

(大丈夫、)

そう心に何度も言い聞かせながら、ハナはモーセの幸せそうな笑顔に安らぎを求めた。

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