シークの涙

59.

ハナが王国でモーセと暮らすようになって、モーセやラビは、ハナの過去を調べ始めた。ハナを調べるときに、真っ先に関連ワードとして出てくるのは、今、目の前にいる、『ジョセフ・リドリー』だった。モーセたちは、はじめは、リドリーに疑いを持ち、動機こそ不明だったものの、ハナの両親の死と密接な関わり合いを持っているのはジョセフ リドリーに他ならないという結論に至った。

だが、事態は急展開を迎える。ハナがあの朝、勝手に屋敷を抜け出しサビーンの大学病院へと向かった騒動で、モーセたちはリドリーが強行手段に出たものと考えた。それなのに、やたらずさんな証拠が目に付いた。特に、リドリーの影の部下と言われるシタールの動き、あまりにあからさまな行動だった。リドリーの告白によれば、真っ向正面からモーセに話して聞かせても、彼はおそらく素直に人の話を聞かないと考えたので、ならば、モーセからリドリーへ自然に辿り着くようにと、ある程度のサインを残しながら、そして仕向けたのだ。それが不自然な形であることが、今でこそ、よくわかる。だが、あの時、モーセの頭にあったのは、“ハナの無事” そのことだけが頭を占めていた。

最初にリドリーの策略に気が付いたのはラビだった。リドリーが、どうやら真実を握っているらしいとつきとめた。そこで、ラビは、リドリーが疑わしいと思われるアカラサマナ証拠が、あまりにずさん過ぎることを指摘して、モーセを納得させたのだ。冷静に考えてみれば、モーセにもわかることだ。そこからが速かった。モーセとリドリーの会談が実現して、アショカを泳がせ、その証拠を掴むため、ハナを利用したのだ。そのお蔭で、アショカ・ツールが捕まった。彼はこれから何年もかけて罪を償うのか、あるいは、死をもって償うのか、全ては法の裁きによるであろう。

「ハナ?」

優しくリドリーに名前を呼ばれ、ハナはゆっくりと顔をあげた。

「わたしは君を孫のように思っているよ。わたしの家族だと思っている。死の淵から生還したわたしは、前のように貪欲に王国のトップになろうとは思わんかったが、それでも王族の人間として、この王国のために、やはり強い意思をもって、時には無慈悲な決定も下し、そして国を守ってきた。」

ハナは静かに頷いた。

「その代償として、今ではわたしには何もない、、、妻も子も、大切な友たちも、、そして一生のライバルと呼べるわたしの名誉ある友も、、もう誰一人残っていない。」

リドリーは妻に先立たれ、3人の子供たちも病死していた。血縁からいうならば、現王の一族が唯一の肉親であった。

「だから、ハナ、、これからのことなのだが、どうだ?わたしと一緒に、わたしのところでゆっくり暮らさないかね?」

/ダン!/

モーセの拳が目の前のテーブルを打った。びっくりしたハナは飛び上がりそうになって、隣のモーセを見上げた。さすがにジョセフ・リドリーは動じず、その視線をモーセにじっと向けている。

「そこまでで、もういいだろう。リドリー大臣。」
「、、、」
「今までハナを守ってきてくれたことは、礼を言おう。だが、これからハナを守るのは、わたしの役目だ。年寄りの節介はここまでだな。ふん。」

ふてぶてしくいいながら、ジロリとモーセはリドリーを睨んだ。

「ハッハハハ、モーセ、若造が、、ハッハハハ。」
「む。」
「守る?ハナをあんな危険な目にあわせて、それでも守るというのか?君の激しい気性で、彼女を翻弄して、それで彼女が幸せになれると思うのか?」
「む、、」
「ハナを拉致までさせ、アショカの手にゆだね、、あんな恐ろしいことを君は平気でやってのけた。」
「だが、全ては計算通りだ。すべてが想定内だ。アショカを油断させ、彼らの計画を事前に突き止めた。だからこそあのパーティを華々しく開き、敵をおびきよせ、屋敷の今に盗聴マイクまでも取り付けさせてやったのだ。」

モーセの言葉を噛みしめながら、ハナは拉致された朝を思い出した。モーセやラビがのんびりと居間で寛いでいたあの場面が呼び起こされる。

「そのお蔭で、アショカよりも我らは、先へ先へと先回りすることができた!」
「だがな、モーセ。ハナに怖い目を合わせたのは事実だろう?ハナを利用することのできる君のその冷酷な決断は、いつかハナを傷つけることになるやもしれない。」
「む、、」
「ハナに必要なのは、休息と安らぎだ。だからこそ、未だ彼女は言葉がでてこないのではないか?君の傍では休まるものも休まらんよ。」

リドリーの言葉は、あまりに正しすぎて的を突きすぎていて、さすがのモーセも一言もなかった。ただ彼は、美しい唇をぐっと噛みしめることしかできなかった。

/サラサラサラサラ/

何やらスケッチブックに書いたハナは、その紙を、リドリーの前に差し出した。

「、、、」
「む、」

リドリーも声を失ったが、モーセも同じように息をのんだ。


【わたしはきっと喋れます。】

【モーセの傍にいてさえいれば、きっと話せる日が、絶対に絶対に来ます!】

ハナは迷いのない瞳をしている。唇をぐっと結び、漆黒の瞳をキラキラさせた。晴れ晴れとしたハナの顔にあるのは、モーセへの信頼 が満ち溢れていた。無言でハナはリドリーを見ている。澄んだ瞳に見つめられ、さしものリドリーも、もう何も言えなかった。

「後悔はしないかい?」

リドリーの言葉に、力強く、後悔はしない!とハナは頭を振った。

「まったくお前は、、」

モーセはいつものように片手を額にあてて、参ったと言う仕草を見せた。この娘にはいつも手を差し伸べられる、、、そんな思いが去来するのかモーセは額を抱えながら、指先の間からハナを見つめる。目が合ったハナはにっこりと笑った。

「、、、参った、、ハナ。」

ボソリとつぶやく。完全に降参をしたかのようなモーセと、その隣にで己の偉業をすごいとも思わず、ただキョトンとしているハナを見れば、リドリーは、年よりの出る幕ではないと気づかされたのかもしれない。

「ハナ、、それでもわたしは待っている。君がいつでも帰れる家だ。わたしは門を開けて待っているとしよう。」

ハナはゆっくり笑顔を浮かべた。リドリーの止まっていた時間がポンと動き始めたように、彼は満足そうに目を細めた。何度も何度も頭を下げて、ハナはリドリーの心に答えるように、また頭を下げた。その度に、彼女のサラサラとした黒髪は、モーセの手を、指先を、体に落ちていき、モーセの心の波は穏やかに静かに流れて行った。



*****

「んん、、、」

ハナのくぐもった苦しい声。だがどこか甘く切なく聞こえる。時折モーセの吐息と、彼の優しい声だけがハナの耳を掠めていく。モーセの長い指先が、やっと、もう一本あわされて、ハナの大切な秘部を何度も何度も行きかっていく。

「ん、ん、、ふ、あ、、」

恥ずかしさと、知らなかった快感の波に、ハナは顔をふるふると動かせば、柔らかな髪が頬にまとわり付いてうまい具合に顔を隠してくれた。だがモーセに容赦はない。あいている片方の手で、髪の毛をはらいのけられた。一糸まとわぬ全裸のハナは、モーセの寝台に横たえられて、手で隠すことも許されない。蕾のような乳房も何もかもが露わにされていて、その姿はモーセの瞳に映しだされている。それが恥ずかしくてたまらない。モーセはと言えば、たくましい上半身の胸だけをさらし、柔らかなタオルを腰に巻いてハナの隣で片腕をつきながら、ハナを苛め焦らしている。かなりの余裕なのか、瞳を細め、その綺麗に形どられた曲線にそって唇の端をあげた。恥ずかしさで真っ赤になったハナを楽しんでいるような様子に、ハナは恨めしさが募る。何て言う憎らしい男なのだろう。そして何て美しい男なのだろう。ハナの目に映りこむ、鍛えあげられた胸の筋肉は衰えることをしらない。肌はなめらかで、ひんやりとして、その無駄のない肉体は、まるでギリシャ彫刻の戦士のようだ。ハナがもう一度恨めしげにモーセを見やれば、彼は途端に心配そうな顔をする。

「痛むか?きついのか?」

モーセの顔が近くになると思うと、すぐに唇が覆われる。モーセの情熱的な唇が下りてきていた。モーセは余裕たっぷりの笑みを浮かべながら満足そうにハナの反応を楽しんでいる。初めの頃は、ハナは恥ずかしがって、なかなか男と女の親密さには発展していかなかった。だが今は、たとえまだモーセの指だけしか知らないソコも、密壺で蠢めく指先に彼女は恥じらいながらも、体をピクンピクンと動かし、時に柔らかな肢体をそらす。快楽の波に溺れそうになって行くハナの苦悶の表情には、女の顔が表れている。モーセがたまらなくなるくらい十分になまめかしく、この上もなく愛おしかった。やっとここまできたのかと、彼は満足げに吐息をついた。

-Powered by HTML DWARF-

inserted by FC2 system