餡子行方

*風子の独白 パート1

モノゴコロだいぶついてから、本当にかなり後になってから、ドーナッツと餡ドーナッツは別物なのだと気がついた。何と、今さらああ? 会社に入って、何となくウマのあってしまった同僚 =今では親友だと思っている= ミッツが聞いたら、いつもの如く冷たく言い放たれ、次回の合コンのネタになってしまうと思う。わたしは離乳食の終わりくらいから、ドーナッツが大好きだったらしい。勿論、そんな甘いもの赤ん坊には毒だから、そうそう味わえなかったらしいが、、それでもたまにオヤツで、ドーナッツを食べさせてもらえると、もう目がなくなって顔中がくしゃりとなって実に幸せそうな顔をしていたらしい。その顔が見たくて、親戚一同、わたしにドーナッツを食べさせたかったらしく、

『もうね、みんなにお断りするのが本当大変だったんだからね?!』

などと後で母親に愚痴られても、わたしがまだモノゴコロつく前の話しだから、そんなことを言われても知ったこっちゃないわけで。ただ、23になった今でも大好物は変わらない。出来れば、毎朝・毎晩・毎日でも食べたいくらい。もし太らないって神様が確約をしてくれるのならば、朝はシナモンの香りとはちみつのドーナッツで、昼は、たっぷりとチョコのコーティングがされたものと黒糖のドーナッツ。晩には、一番大好きなシンプルなザラザラとした砂糖がまぶしてある昔ながらのドーナッツ、これをカフェオレと一緒に3個はいきたい。ヨダレの出そうな話だが、実際、それを実行しないのは、神様がそれを確約してくれないからだ。欲望のままに、理想のドーナッツを三食食べ続けたら、今だってきつい、去年初ボーナスで買ったアズノゥアズピンキーのツイードのコートがパッツンパッツンになってしまう。いや、きっともう前ボタンが閉まらないだろう。お気に入りのコートだから、そうなるとちょっと痛い。

『ねえ、風子(ふうこ)それで?アンタのアンドーナッツとドーナッツ、そもそもなぜ同じだと思ったわけ?』

結局遅かれ早かれというわけで、カンの良い、その上超美人で毒舌の親友ミッツに知られることになってしまった。ミッツは案の定、わたしの口からどんなオモロイことがでてくるやらで、期待に満ち溢れて、ワクワクとした瞳で見ている。ああ本当のこと話したら、また突っ込まれてバカにされちゃうよ。ミッツは実に口が悪いのだ。ちぇっ、ズバズバはっきり言うドSで、わたしをからかおうとするときは、いつでもその綺麗なカーブに沿った形の良い唇の端を少しあげる。意地悪くニヤリと笑いを浮かべる顔でさえ、なんでミッツはこんなにも綺麗で美人なのよ!神様は本当に意地悪だ、などと、真実を告白する前にちょっと逃避してみる。ああ、でもミッツの追求にはどうやっても逃れられそうにもないわけで、、

『ほうら、ブリみたいなもんだよ。若い時では関西とかではハマチ、こっちではわらさとか呼ぶじゃん?だけど結局ブリとハマチは同じってこと。』
『、、、むむ?何それ?アンタ、相変わらず食べることだけは詳しいよね?』

ミッツが突っ込む。

『フン、どうせ、特技は食べることだけですよ、わたしは。』
『ほうら、口とがらさない。もっとわかりやすく教えてよ。』
『だから、アンドーナッツの真ん中に餡子があって、そこの餡子の部分を食べちゃった残りをドーナッツと呼ぶんだと思ってた。』

『うん、、、、 えええええええええええええええ??』

この世の終わりのような叫び声を聞きながら、わたしのとんでもない勘違いの元凶の元が、実はわたしの初恋の人なんだよなあ、、、なんてことは、ミッツには黙っておく。ドーナッツを食べる度に、きゅんと胸が高鳴るのは、美味しいからという理由だけではないんだもん。だけど、たぶん、もう二度と会わないと思うから。だから、ひっそりとこの胸にしまっておくの。
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