処女の落とし方

16.

ゆり子の言うとおり、彼女の住むマンションは、ワインバーから数分行った大通りから一本入った細い道沿いにあった。自動ロックを解除してゆり子は無言で共同玄関を入っていく。入った自動ドアのところで振り返って、涼を招きいれた。こぎれいなマンションだった。共同フロアーなども整然とされて掃除もよく行き届いていた。ゆり子らしいマンションだと涼はあたりをみまわす。エレベータに乗る。ゆり子の細い指が7階を押した。これから起こることを期待して、涼は胸の鼓動を悟られないように、階の数字が1階また1階と上がって行くのだけを見届ける。

/チン/

エレベータが開き、廊下を歩く。一番端の角部屋。表札も何も出ていない無機質なドアに鍵をいれ、ガチャリと回す。ここまで2人とも何もしゃべっていなかった。涼はガラにもなく自分が緊張しているのだと気づく。

(ばかな、中坊じゃあるまいし、、、)

玄関の電気のスイッチを入れて明るくなって、やっと初めてゆり子は口を開いた。

「どうぞ、、ここが、我が家です。」

玄関を入ってすぐ傍に、一つ、部屋のドアがあった。そこを通りすぎ短い廊下の真ん中に向かい合うようにドアが2つ。おそらくトイレと風呂場かと涼はあたりをつける。廊下の奥にドアがあり、そこにリビングダイニングがあった。小さなかわいらしいラブソファがあって、そこは涼の部屋とは全く違う、異空間。女の部屋と呼ぶほどの生々しいものではなく、どちらかというと理路整然とした優等生を思い出す部屋。余計なものが一切ないゆり子らしい部屋だ。ゆり子そのもののような気がして涼は少し気恥ずかしくなる。

「何か 飲みますか?」
「いや、もうシャワーにしよう。」

性急すぎてはいけないとあの本 =ロストバージンをしたい女たち= に書いてあったではないか、と涼は思うも、ゆり子の気持ちが変わらないうちにとでもいうように言葉にする。実は涼がこれ以上このぎこちない空気に耐えられない。


////ことが性急に及びすぎるのもどうかと思いますが、ムードを作りすぎるのも嫌がります。自分の処女へ罪悪感や羞恥を感じている女性は、その処女性の喪失というもがサラリと実行されることが望ましいのです。////


「あの、先に入られますか?」

ゆり子の声が小さい。

「いや、一緒にはいろう。」


////若い子は ”初めて” に思い出作りやロマンチックなセックスを期待します。でも、ここで忘れてはいけません。こちら側の女性達、=とうを過ぎた= 一種の儀式としての通過点の一環だと考えています。社会にでれば一人前の女性でありながら、こちらの方面では何故か持たなくてもいいようなコンプレックスを持っている人たちがほとんどです。////

「うっ、」

一瞬ゆり子が固まった。

「どうしたの?」
「いきなりは、恥ずかしいです。」
「オレだって恥ずかしいよ。だって倉沢にオレの裸見せるの初めてだし、、」

ゆり子の緊張を解くように涼はあえて少しおどけた調子で言ってみる。

「わかりました。」

まるで業務上での『了解です』とでもいうように頷いた。先にゆり子が風呂場に行き、バスタオルなどを用意しているようで、やがて、シャワーの水音が聞こえてきた。ゆり子がすでに服を脱いで風呂場に入ったタイミングを計り、涼も服を脱ぎ始めた。裸で先ほどゆり子が入っていった風呂場のドアをあける。洗面所があった。その傍にすりガラスのドア。ゆり子の影がうつっていた。涼は緊張しながらドアノブをあけた。

ゆり子は涼に背を向けシャワーの湯を浴びていたが、涼は思わずゴクリと息をのむ。思っていた通りの美しい肢体。白い肌から湯気が立ちこめ、その中にスラリとした優雅なゆり子の姿に、思わず手がのびた。

「きれいだね。」

ゆり子は言葉を発しない。

「オレ、倉沢に比べたら見劣りするから恥ずかしいよ。」
「そんなこと、、、」

くるりとこちらを向かせる。ゆり子は涼と目を一切合わせず横を向く。涼が思い描いていた通り、一切無駄な贅肉がない、美しい彫刻を思いおこさせる肉体。かわいらしい小ぶりの胸、ウエストは細く、腰もそれほど大きくない。見惚れてしまうほどのスラリとしなやかに伸びた脚。

「きれいだ、、」

涼はゆり子の顎に手をかけて、唇に見とれる。緊張のためかキュッと結ばれた唇にそっと自分の口を落とした。彼女の口元だけを見つめ、ゆっくり丁寧に口づけを何度も何度もゆり子の口におとしていく。やがて彼女も諦めたように力を抜き始め涼のキスに応えはじめる。ゆり子が意志を持ってそうやってくれるのが涼は何故か嬉しくて、少し乱暴に舌を入れいやらしくゆり子の舌と絡めた。シャワーの湯にしばらく打たれながら、涼は好き勝手にゆり子の体を触れてみる。お互いの体を洗いながら、ゆり子はまだ恥ずかしさから抜け出ていない様子で、スキあれば涼の視線から自分の裸を隠すように体を動かす。その姿がかわいらしくていじらしくて、涼はこの場で押し倒してしまいたくなる。

「倉沢、俺、もう我慢できない。」

シャワーの栓をひねり、ゆり子の手を引く。彼女の体を軽くバスタオルでふいてやり、一応彼女の恥ずかしさに敬意を表して、バスタオルで全身をくるんでやった。


////自分の体には自信がない人が多いようです。どんな女性とも劣ってないことを証明してあげてください。ただし、それをあまり口に出しすぎると逆効果になることもあります。////

(んなことねーよっ、綺麗なんだから、、)

「倉沢、寝室、連れてって、、、」

涼は自分はさっと体を拭いただけで、裸のまま先ほどの避妊具の箱を忘れずに手にして、ゆり子の後に続いた。玄関の傍のドアをあけると、そこには2人で寝るには多少窮屈なベッドがひとつ、壁際に置かれていた。寒色系のベッドカバーが寝台の全貌を隠していた。

「電気はどうする? 点けていていい?」 

「け、消してもらえますか?」

薄暗い明かりだけは点けておく。すでに涼の欲望の象徴は猛々しいほどにドクドク脈を打っており、それはすでにゆり子の視界にも入っているだろう。涼は乱暴に箱を開け、コンドームを一つ取り出そうとする。気がはやるのかうまく開けられない、

(くそっ)

「あの、手伝った、、ほうが、いいですか?」

ゆり子の自信なさげな声に涼は思わずちょっと意地悪を言ってみる。

「ん? じゃあお願いしてもいい?」

涼はベッドの端に腰掛けた。コンドームを涼から渡され、ゆり子は彼の膝元にしゃがみこむ。扇情的な光景が涼の眼前に広がり、刺激される。

(やばい、、、)

「あ、の、 やはりフェラしたほうが、、いいでしょうか?」

いきなりのかわいらしい質問に緊張していた涼の顔に笑顔が浮かぶ。

「倉沢いいよ、無理しないで、今はつけてくれるだけで嬉しいから。」

目が合ったゆり子の顔が少し赤くなった。

涼の前で少し前かがみになってコンドームをつけてくれているゆり子。彼女におそるおそる触られ、涼の欲情はますます高ぶるばかり。ゆり子が顔をあげると同時に、手をひっぱりベッドの上で組み敷く。あまりの突然の出来事にゆり子の瞳が睫毛で揺れた。我慢の限界で、さきほどの風呂場のキスとは違い、むさぼるようにいやらしく口づけをする。ゆり子の濡れた髪が白い枕の上パサリと広がる。荒々しくバスタオルにさわれば簡単にはだけた。小ぶりの胸に手をはわせながら、彼女の反応を見る。ゆり子は目をぎゅっと瞑り、早くこの儀式の終わりだけを考えているようだった。


////何度も繰り返します。この手の女性達は自分が重い女だと思われるのをとても嫌います。なので、『ロストバージン』なんて何の意味がないように淡々と行いたいのです。////


涼は完全に自分を見失っていた。ゆり子に優しくしてやりたいのに、今は歯止めがききそうにない。彼女は声を出さないように、顔を苦しそうにゆがめる。

「声、、だして、、」

涼にしては、ひどく甘い声がでた。涼が耳元でささやく。涼が言ってもゆり子は頑なに体を固くする。さきほどの避妊具についていたローションを手にすりこみながら下へ下へと指をはわせる。涼が目的の場所を見つけ指をすっとそこに触れてみれば、ゆり子の体が一瞬にして固くなる。ローションのついた指を、ゆり子が初めて許す場所へと一本入れてみる。確かに狭い。

「倉沢、少し力、抜ける?」

ゆり子は力を抜くように努力しているようだが、何かの拍子にまた力がはいる。涼は諦めず長い指先を軽く出して、また入れて、と リズミカルに何度も繰り返す。表情を見れば、口元から声がもれないように必死に耐えているゆり子。そのとき、涼の指がゆり子の暗い闇の内側をサッと擦った。初めてゆり子から声が漏れた。

「あっ、、」

涼の理性が飛んだ瞬間。そこを攻め始めていく。もう一本指を増やし、狭い暗路を奥へ、また弱い部分を擦り始める。何度も。ゆり子は目を潤ませながら、涼に懇願する。

「だ、め、、設楽さ、ん、、、お、ねが、あっ ん、ん」

ゆり子の瞳が恥ずかしさと快楽の境界線をさまよい始めて、もう涼は押さえがきかず思わず口に出す。

「ごめん、倉沢、俺、がまんできない、、、、」
ポチリ嬉喜
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