俎板の黒猫

6.

「たまらないんだよ。倉沢は、、」
「ああ、、ああ、、」

涼は再びゆり子の茂みを攻め立てていく。長い指先でこすりあげれば、ゆり子は容易く腰を弓なりにそらす。ゆり子の弱いところを、中指を曲げて節で、何度も擦りあげる。

「あ、あああ、だ、だめえ、設楽さん、、あ、ああ、」

いつも以上にしつように、何度も何度も攻めていき、ゆり子が許しを乞うても、今夜は許さなかった。ゆり子の中は熱くどろりとして、相変わらず狭くきつい道を、涼の指が犯していく。

「もう、したらさ、、ん、む、むりです。」

今夜は涼の指先だけで幾度も達かせて啼かせて、何度も迎えた絶頂にゆり子の体は敏感すぎるくらいに反応を繰り返す。

「もっと乱れろよ、、ん?」

何度も抜き差しを繰り返す指先に、ゆり子の体が小刻みに震える。痙攣をおこしたように、中が波のようにうねり始めている。

「もう、いれて、、設楽さん、、おね、がい、、もういれて、、」、

幾度目かの泣きの懇願に、涼はやっと己を掴み、ゆり子の感じやすい入口へとゆっくとじらしながらいれていく。まだ先の方だけなのに、今夜のゆり子は、すぐにピクリと体を震わせ、甘い吐息を漏らした。

「ああ、あああああ、、、」

刹那、ぐっと奥まで差し込んでそのままゆっくりと抽挿を繰り返す。

「し、したら、さん、ああ、ああん、あん、、い、いやああああ、」

あれだけ達ったゆり子の体なのに、涼の欲望で飽きるこをたしらない。うねった波の中で涼の動きも早くなる。

「くっ、」

涼から苦痛の声がもれる。

「やばいくらい、、気持ちがいい、、」

それでも涼は欲淫を解き放つ限界とせめぎ合いながら、ガンガンと打ち込んでいく。ゆり子の体は壊れそうに、涼の激しい動きにガクガクと揺れる。ゆりこの指先が涼の腕を掴みすがり始め、快楽の頂が押し寄せていることを知らせる。

「お、おね、、がいい、、もう、、」
「はっ、はっ、」

涼の息遣いが荒くなり、時折甘い吐息すらも漏れてしまう。ゆり子とのセックスの相性の良さを涼は快楽の極みで実感する。ゆり子の眉じりは下がり悶絶の顔をしているのに、その顔はどこか厭らしく涼を誘う。

「一回、出させて、、、」

我慢の限界に、涼は低く呻き、ゆり子の潤んだ瞳がしっかりと涼を見つめる。

「ああああ、、、、あ、、」



一度出せば、もっとゆり子の中を感じることができる。だが、ゆり子は、もう数えられないくらいの快感の波に、ぐったりとしている。涼の瞳は、未だ熱をこもり、すぐにでも欲望がまた立ち上がってきそうな勢いだ。

「設楽さん、、、今日は、もうこれで、勘弁してくださ、、」
「だあめ。」
「あ、、」

ゆり子のギブアップをすぐに口づけで塞いでしまう。

「倉沢さあ、俺がせっかく予約したワインレストランを袖にふっておいて、挙句、王道女に勝てなかっただと? 俺といるのが幸せじゃない、みたいな言いかたしといて、今夜は、絶対に体で幸せを覚えこませてやるから?」

冗談かと思えば、涼の瞳はぎらぎらと熱く燃えているようで、涼といえども、今夜の同期女子会は、涼は涼なりに色々考えることもあったようだし、、、己を省りみたり、悔やんだり、、そして、腹立たしく思ったりと、、かなり複雑だ。

「だから、今夜は、覚悟して? く・ら・さ・わ?」

色っぽい瞳が、ゆり子をいっぱいに映して、誘惑する。涼の美しい唇の曲線から、いやらしく舌をちろりとだして、まるで獲物を物色するようにじっと見つめる。その色香ただよう涼の仕草に、ゆり子の体がブルリと震える。このままでは、また涼の思うつぼだ。

「し、設楽さん、、」
「降参、なんていうのは聞かないからね?」
「あ、あの、、わたし、、フェラ、、、します。させてください。」

「え?」

涼は耳を疑った。女とセックスするときは、快楽を求め、互いにフェラをしあうこともあった。女たちは涼のモノを口に含み、涼に悦びを与えようと丁寧にしてくれたりする。それは気持ちのいいもので、たまらないが、だからと言ってそれに溺れたりはしない。だがゆり子とのセックスで、涼はゆり子にフェラをさせない。何度かゆり子のほうから申し出はあったけれど、やんわり涼は断った。それは涼が、ゆり子とキスをするのが好きで、最中に何度も何度も口づけを繰り返す。優しいキスは愛情にあふれ出て、ゆり子の香りを十分に堪能できるからだ。

「あ、あの、ユミが、、、」
「え?」

「柏さんです、、、例の、、」

ぎょっとした。みなまで言わず、“例の” という言葉は枕詞であり、それに続く言葉は、つまり、あのとき、みんなで飲んでた席で、ゆり子の仲の良い同僚を誘ってラブホで寝ちゃった、と続くわけだ。

「そ、それが?なに?」

涼は、冷たい水を浴びせられたように、急に体が冷えてくる。

「ユミと飲んだんですけど、今夜彼女酔っぱらって、あの晩の話を何度も事細かにしたがるので、、」
「だ、だって、もう、10年以上も前の話でしょ?」
「それでも彼女にとっては素敵な思い出なのでしょう。」
「、、、、」

「わたしも聞きたくなかったから、、色々、話をそらしたりしたんですけど、、」
「うん、、」

「とにかく、設楽さんはフェラが好きって、、」
「は?」
「でも、わたし一度もしてないから、、」
「、、、、」

「フェラの最中、すごく色っぽい顔をするって、、ユミが言っていました。わたし、、その顔見たくて、、だって、ほかの女の人は、みんなしてあげているのに、、わたしは、その、、」

「待て、待て!倉沢っ!」
「何だか、ユミの話聞いて、少しだけ、、ここがチリリと胸が焦げて、、、」


つまり、ゆり子は嫉妬したのだ。体をあわせた女はみな、涼を口に含み、彼に快楽を与えていたと、、、ゆり子は自分だけがその恩恵をあずかることができず、過去の女たちに嫉妬したのだろうか。

「だから、わたし、、、、たぶん、設楽さんは、わたしが若い頃フェラを強要されて、それで、だから、かわいそうだからってさせないのでしょう?」

高校生のとき付き合った同級生にイキナリ猛々しいモノを出され咥えろと言われ、ゆり子は見たこともないグロテスクなものに嫌悪感を抱き、、初めてのカレシとはそれで終止符を打った。その話を涼にしたことがあり、彼は勿論それを覚えている。けれど、涼が、ゆり子にそれをさせないのは、ゆり子が思っているのとは、違うのだ。

「俺って、、くとき、、、色っぽい?」

涼は、にやりと唇の端をあげた。一瞬思い出したかのように、ゆり子の首元がさああっと赤みを帯びる。

「あ、はい、、わたしはぼおってしてるけど、、設楽さんは何だか艶っぽい、、」

「ふうん。じゃ、俺って気持ちいいことすると、艶っぽいんだ。」
「ええ。だから、もっと見てみたいし、、わたしも、設楽さんにフェラで気持ちよくなってもらいたいし、、、」

「ああ。倉沢、お前は大丈夫。」
「え?」
「俺、気持ちよくなると、そんなにすごおおおおおおい色っぽくなるんなら、、」
「、、、、、」

「お前ん中、すごおおおおおおおい気持ちいい、めちゃくちゃ、たまらない、、」
「え、」
「フェラやってもらうどころの騒ぎじゃないから。」
「あ、、」
「だから、倉沢はいつも俺の、その色っぽい艶っぽい顔、誰よりもたくさんみてるから、大丈夫。」
「で、でも、、」

まだ納得のいかないゆり子で、涼の心、ここに知らずの女に、涼は嗜虐心がまた生まれてくるのだ。

「だから、また俺の艶っぽい顔見せてやるから、」
「、、、、」


「や・ろ・う・ぜ」


耳元で囁くと同時にゆり子がぴょんと上掛けをはねて、床に散らばった服をあわててまとめて肌を出来る限り隠す。

(そんなことしなくてもいいのに、、)

生意気で強情で、情が深い、大人の女のくせに、ゆり子のこういうところが可愛くて、涼はクスリと笑った。

「わ、わたし、、シャワーを!」

くるりと向いて、まさに言葉通りに駆けていく。何度か使ったことがあるし、ゆり子と部屋の間取りは似たり寄ったりで、勝手知ったる何とやらだ。無防備になった美しい背中の骨格を見つめながら、ふううっと涼は天井に息を吐いた。彼の、髪はいつのまにか乾いていて、上を向いた拍子にサラサラと顔に落ちてくる。

これもひとつの王道だと思う自分の人生に、幸福感を感じてしまう。あとは、じりじりとゆり子を結婚まで追い詰める、、、いや、だがそれは、もう少し、いや、もっともっと先の長い話なのだ。

「まいったな。」

髪をかき上げる涼の顔はこの上もなく色香がただよっていた。幸せの艶がにじみ出ている設楽涼 今まさに公私ともに敵なし、といったところか。





*****

美和子のオマケ。



「ちょっと、あなたご飯よそって。」

朝と昼を兼ねた土曜日のブランチは、いつもより豪華な皿の数。料理はきっちりするけれど、一度食卓に座ったら、あとは、旦那の仕事とばかりに、美和子はお茶碗を夫に差し出した。

「美和ちゃん、よく食うな?」
「ふふん、まったく、どいつもこいつも手がかかるったらありゃしないわ。」

よそってもらったごはん茶碗を受け取り、がさっとごはんを口の中に放り込む。ホカホカのつるりとしたごはんが咀嚼しているうちに甘く溶けだしてくる。

「ああ。美味しい。」
「で、どうしたって?」

美和子の夫は、美和子が愚痴をこぼす『体だけ大人になったガキの同僚たち』の話を、いつも聞いているため、そんじょそこらの人よりも誰よりも、美和子の会社の内情に長けているのだ。

「わたしさあ、会社辞めて、占いの館でも開こうかしら?」
「また、なんで?」



牧川が、土曜日の朝一 つまり今朝、メールをよこした。

【美和子さんの作戦通りでした。陰陽師もまっさおです。】

参謀美和子の読み通り、ことは進んだらしい。第一女の集まりなど、酒が入り夜になればなるほど、厄介ごとが持ち上がるケースが多い。なので、美和子は、夕食だけで、みんながそれぞれ解散するのであるならば、それほどの心配はしていなかったのである。だが、夕食を終え、あいているものだけで酒を飲もうと二次会になだれ込むケース、この場合は、ゆり子が窮地に陥る可能性もあるとみていた。よって、牧川に頼み込み、二次会の場所で先回りして、ゆり子を待っているように指示をだしたのだ。もし、ゆり子たちが、夕食だけでお開き!となってもそれはそれでよかったのだ。なぜなら、牧川が待っているワインバーは、どうやら牧川が頻繁に顔をだす場所で、顔なじみもいるらしい。その上、最近、牧川の様子から、気になり始めた女の影がちらほらと見受けられる。どうやら、そこのバー関係者ではないかと美和子は睨んでいるのだから、これまたすごい。よって、たとえゆり子が二次会に行かなかったとして、牧川が待ちぼうけをくらったとしても、牧川は牧川で別の目的でそのバーにいるのだから、誰も何も傷つくことも、損をすることもない、この計画。何と完璧で読みの深いことだろう。


「美和ちゃん、お茶いる?」
「いる。濃いいいいの頂戴ね。」
「はい。はい。」

男にしておくのはもったいないくらいに、よく気がつく夫だ。占いの館を開く暁には、夫をアシスタントにしてこき使おう、などと、美和子は少しばかり毎日の忙殺される仕事の日々からの 妄想という逃避に走る。

「たぶん、設楽さんがすごい上客になるだろうな。ふふ、そしたら、少しばかり料金をふっかけようっと!」

占いの館の主となった自分を想像しながら、密かにほくそ笑む、肉食女子なのであった。



THE END

楽しんでいただけましたでしょうか?
アルファポリスさんの恋愛小説大賞参加イベントで
頑張って小ネタ話を更新してみました。
やはり現代物、オフィスラブは身近な話だけにとても書きやすく、
わたし自身、書いていて楽しかったです。
読んでくださりありがとうございましたvvv

 

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