餡子の行方

降ってわいたハプニング 3.

何度めかの微睡まどろみの中で、うっすらと瞳をあければ、目を閉じている奏の顔とぶつかった。端整な顔立ちを無防備にさらしている彼は、羨ましいくらい美しい。何て長い睫毛なんだろう、、、いつもずっと思っていた。そんな男に、、、、 何度も揺らされた。疲れて微睡む度に、うっすらと瞳をあければまた抱かれた、、、、

(ギャッ、、)

恥ずかしさで頭がいっぱいに占領されていく前に、風子は瞳をぎゅっと閉じた。勿論、眠気には敵わない。もう体がだるくてへとへとで、、、頭のシンからわきあがってくる眠気のモヤに風子は体ごと包まれていった。




*****

ぐっすり眠った。本当にパチリと音がするような、そんな清々しさを覚えながら、瞼をあけた。突然見慣れない天井や、違和感のあるシーツの感触、刹那、風子の頭がマッハの如く昨夜のことを思い出した。同時、いたたまれない恥ずかしさに、うわっと声があがった。

朝、突然見慣れない場所で目覚めた人が、『あれ?ここは?』 なんて悠長に考え込むような優雅なひとときは、ドラマの場面と、したたかに酔っぱらった二日酔いの人だけだ。現実には、昨夜のことがこれでもかこれでもかと風子に押し寄せてくる。恥ずかしいのと自己嫌悪で、心のドアをピシャリと閉めても、それは怒涛の如く追いかけては、風子の思考を邪魔してくるのだ。肝心の奏は、もうベッドにはいない。かすかに流れる水の音から、彼はシャワーを浴びているのだろう。

今度こそ風子は逃げることもできないくらいの鮮明な記憶が蘇る。頭だけではなく体中に刻まれた記憶がジワジワと風子を追い詰める。日常生活の中で、トイレから出たとき、スカートの後ろがめくれ、パンツ丸出しで歩いていたのを気がついた恥ずかしさ、みたいな、いや、もっとすごい恥部の塊。一糸まとわぬ姿の裸の男たちが、男の証をブラブラさせながら、何十人と風子に向かって走ってくるくらい、そんな衝撃的な恥ずかしさと嫌悪で、顔をがばりと両手で覆った。今、奏が隣にいなくて、よかった。今、彼がシャワーを浴びていてくれてよかった。本当によかった、風子は実感する。昨夜のことがフラッシュバックのように、これでもかと風子を襲う。もう鼻血が出そうなくらい顔が真っ赤になって、うぎゃあ!という声が何度も漏れた。男と女の営みの後は、みんなこんな風に悶絶しているのだろうか?、恋愛ドラマや恋愛映画のような、ロマンチックな余韻で、男女がベッドの中で見詰め合って微笑みあう、、なんてこと、そんなことは絵空事だ。できれば、できれば、この一瞬で消えてなくなりたい!シャワーから出てきた奏にどんな顔で会えばいいと言うのか。奏の顔を朝から見るなんて、考えただけでも心臓が喉から出そうになる。風子は真剣に胸をぎゅっとおさえた。実に忙しい女だ。思い出しては、真っ赤になった顔を覆い、勝手に頭の中で繰り広がるフラッシュバックに、擬音たっぷりの悲鳴をあげて、そして、今度は早鐘のように打つ心臓が飛び出さないようにと胸を押さえる。

昨夜の奏は実にいやらしかった。色っぽくて、しつようで、意地悪で、、そして、、、優しい。普段は口数が少なくて意地悪なことも言うくせに、ああいうときには、風子の心が切なくキュっとなるくらい、とびっきりに優しくて、とびっきりに甘かった。何度も風子の中をかき回し、何度も何度も攻め立てた。大きな手でたわわな胸を揉みしだかれ、吸われ、腰を押さえつけ、打ち付けられた。

風子は処女だったから、初めはきつくて、壮絶に痛かった。それは奏もわかっていたようだ。彼はシーツが汚れないようにと、バスタオルを風子の下に敷いてくれた。

『力を抜け。』

ボソリと緊張した奏の声音に、風子はまた身を固くした。埒があかないと思った奏は、そのまま優しく風子のふわふわした髪の毛をなでた。

『痛いかもしれない、、、』

それまで、奏は何度も何度も十分に、風子の狭い暗闇を、彼の長い指先で優しく擦りいれて潤してくれた。けれど、それが風子には死んでしまいたくなるくらい恥ずかしいことで、、

『いや、、いやだあ、ショーニィ、、そんなとこ触っちゃ、、』

『けど、、、もう少し濡らさないと、、、辛いだろ?』

女の体を知り尽くしている奏は、風子の耳元にそんなことを囁く。けれど、もういい。恥ずかしいから、この行為が早く終わってほしいから、、、風子は懇願にも近い声をあげた。

『や、、も、大丈夫、、挿れて、、ショーニィ、、はや、、く。』
『痛むかも、、風子、、』

奏は、風子の痛みを一瞬で終わらせようと、一気に、ぐぐっと彼の一部をねじいれた。刹那、風子の悲鳴があがった。

『あああああ、いい、痛い!、痛い痛い!!ショーニィ、、』

奏は、真剣にそして同情するように瞳を細め、もう一度風子の頭を撫でた。風子の悲しげなため息が響く。

『大丈夫か、風子?』

心配そうに風子の顔を覗き込む奏の瞳に、胸がキュンとやられた。普段、こんな顔しないくせに、今、風子を心配げに真剣な顔をしている奏を見ていると、まるで自分が彼の大切な大切な愛しい人のように思える。風子は真っ赤になりながら、ただ、コクコクと頷き、それでも痛みに顔をしかめた。

結局その夜、風子は奏に何度抱かれたかわからない。気がつけば、また奏の胸の中にいて、奏は風子を容赦しない。初めは痛くて痛くて、ただ、その痛みからのがれるために腰をひいて、奏から逃げていた風子だったが、それは、いつしか、恐ろしい快楽の沼へと落ちていきそうで、いつのまにかそれが怖くて怖くて、奏から逃げたかった。

『やだ、ショーニィ、、、もうそこ、、やだ、、やん、、』

奏は本当にいやらしく、しつように風子を追い詰めていく。何度も何度もやめてと懇願したのに、奏は絶対にやめようとしなかった。昔、幼かった風子たちに奏は意地悪をしたけれど、風子がもうやだ、、と泣きべそをかいたり、風子が本当に心底嫌がることは、絶対にしなかった。なのに、今夜の奏は違う。幾度も風子は、もういやだと瞳に涙を滲ませながらこんなにもお願いしているのに、暗闇の中の奏は、ただ美しい唇の端をあげ、ニヤリと笑うだけ。彼は知っているのだ。もう痛みだけではない、享楽への境界線を風子が越えてしまっていることを。それでも風子は、自分がどうにかなってしまいそうだったから、涙ながらに訴えた。

『やだ、やだ、だめだめだめ、お願い、、ショーニィ、、もう、、あ、ああ、、ああん』

ハナにかかった変な甘ったるい声が出た。風子が抵抗をするたびに、奏は意地悪くもっともっと淫らに大胆になっていく。経験値の低い風子にはもうどうする事もできなかった。世の中の男女は、みんな、こんなことや、あんなことを恥ずかしげもなくやっているのだろうか。そして、みんな何もなかったかの顔で、どうして、会社で、学校で、家で、普通の顔をしていられるのだろう。まどろんでは抱かれ、また眠り、瞳をあけて奏と目があえば唇を奪われた。そして彼は長い指先で、風子の首筋や、豊かな胸、腰へと、流れるようにそして時にねっとりと触れていく。それだけでも風子は声が漏れてしまいそうで、あわてて口を押さえれば、すぐに奏に手を掴まれる。余裕たっぷりに笑われて、それでも彼は手を抜くどころか、風子を快楽へ深く深く追い立てた。

一番恥ずかしかったのは、もう体力の限界で、それでもシャワーを浴びたくて、バスルームに入ったときのこと。腰がたたず、もうだるくて、それでも必死に最後の力を振り絞りやっとシャワーを浴びた。裸のまま洗面台のままでしばし、ぼうっとしていたら、大きな鏡の前で、奏はいきなり風子を後ろから抱きしめた。

『いや、、、もうやだよ、、、ショーニィ、、』

優しい柔らかな洗面所のダウンライトが、風子の真っ白な柔らかな肌を淫らに映し出す。目の前の大きな鏡に、恥ずかしさに染まった風子の丸みをおびた体が映る。女になってしまった風子の顔は、厭らしく見えて、まるで見知らぬ人間がそこにいるみたいで、凝視することなんてできなかった。触られることに快楽を覚えてしまった淫らな女がそこにいて、思わず目をそらした。

『ばあか、見てみろ。風子。』

それを許さないように、余裕ある手つきで奏の片手が風子の顔を鏡に戻す。意地悪く奏は、風子の耳元にそんなことを言った。

『や、やだ、、は、恥ずかしい、、って、、し、、ショーニィ、、』

恥ずかしがる風子に、奏は、後ろから、大きな手で柔らかな胸をむんずと掴んだ。鏡には、奏に背後から襲われているような、イカガワシイことをしている自分が映りこんでいた。胸を何度も揉まれた。奏の指と指の間から、ぎゅっと柔らかい肉が揉みしだかれては解き放たれる。風子のたわわな胸は、赤くなって、それでも、奏の思い通りに揉まれるままに自由自在に形を変えていく。

『あん、いた』

奏の指が、風子の胸の先端を摘んだ。痛いけれど、疼くような、何ともいえない快感に襲われた。

『腰をあげろ、風子。』

奏は風子のうなじに唇を落とし、くすぐったくなって風子は体をよじった。

『足をもっと開けよ。風子。』

背中から耳元にかけて低い奏の声に、風子はゾクリとなった。

『あ、、あん、、、』

風子は言う通りに腰をあげ、奏を迎え入れようと、足を開いた。前かがみになってバランスを崩した風子の体は、前に少しつんのめり、顔が洗面台を超えて鏡に近くなった。顔をあげた瞬間、自分の厭らしい顔が風子の瞳に飛び込んできた。そして、後ろの奏の、淫らで色っぽい熱い視線が風子をじっと見つめている。

『あ、あんあん、あん、』

奏は、容赦なくズンズンと己を叩きつけてくる。

『あ、や、やん、やだ、、、やだって、ショーニィ。』
『お前、、狭いんだよ、、あ、、しめつけんな、、こら、、、』

奏の困ったような声音に、また恥ずかしさが込み上げる。風子は腰をたたきつけられるまま、必死に洗面台にしがみつく。

/ぱんぱんぱんぱん、、ぱんぱん/

打たれるたびに、風子の体は熱を帯び、ピンク色に染まっていく。白肌は、ほんのり赤く染まり、のぼせるように風子はぼおっと何も考えられない。頭が白くなって、限界が近いことを知る。

『ショーニィ、も、だめだめだめだめ、だめ、、いや、いや、そこばっか攻めちゃ、や、やだ、、、』

『ここだろ?ここがいいんだろ?』

こういうときの奏は本当に厭らしい。嬉しそうな口調で、まだ、彼自身は果てるつもりがないらしく、風子を際まで追い詰めていく。余裕に満ち溢れ、憎らしい気持ちにさせられる。

『も、だめ、だめだめ、、あんあん、あん』

奏の硬く屹立したものが、風子の中で一段と質量を増していく。

『ん、んん、あ、あ、、』
『気持ち、、いいんだな、、、こんなにも、、いいんだ、、お前って、、』
『あ、ああ、ああああ』
『ふう、、こ、、』
『あっ、うう、、あん、あ、』

奏の吐息も、風子の耳には届かない。我慢できない快楽の波がだんだん強く訪れてきて、、風子の柔軟な体は、奏の激しい動きのままに、動かされていく。背中が反り始め、風子の瞳に涙がたまった

『もう、、だめえ、、、、、、』





「ぎゃああああっ!!」

再び擬音の悲鳴をあげ、風子は我に返った。奏がシャワーから出てくる前に、出て行かなくては、、風子にとって、普通の顔で奏と話すことなんてできやしない。恥ずかしさで死んだ方がましだ。あわてて布団をずらせば、そこには、衣服も何も着けていない、あられもない裸の姿。

「うぎゃっ!」

忙しくも声をたてながら、風子は、バスタオルで体を隠しながら、己の散在している服を拾い上げる。ショーツもブラも、脱ぎ捨てられ放り出され、それが昨夜の痕跡をまざまざと思い起こさせる。

「ぎゃあああ!いや、ぎゃっ、、」

何を見ても昨夜の厭らしいあのとき・ ・に繋がって、風子の顔は真っ赤なままだ。ああ、もう本当に消えてなくなりたい、、、風子は本当に心の底からそう思った。

奏が、どんな気持ちで風子を抱いたのか、同情なのか戒めなのか、そんなことなど知る良しもないけれど、今はただ、この場から逃げ去りたい。ホテル代のことや諸々、色々奏に迷惑をかけるだろう。けれど、今はただこの場から一瞬でも早く立ち去りたい。その思いだけで、いつもはのんびり屋の風子だが、このときばかりはまるで魔法にでもかかったかのように、一瞬で早変わり。あっというまにバタバタと服を着て、まるで落ち着きのないシンデレラの如く、部屋を出て行こうと必死だ。ドアノブに手をかけた。シャワー室から人が出てきた気配がする。あわててすいっと風子は扉を開けた。ドアが閉まるのと同時に、後ろ手に 『風子!』と呼ぶ声と、ドアが閉まる音が同時にして、奏の声は扉の音にかき消され風子の耳には聞こえなかった。
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